【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
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「殿下が変なことを言ってすみません。随分と困惑させてしまいましたね」


 屋敷に帰り着くと、ブラントはラルカをお茶へと誘った。
 馬車の中でも浮かない表情をしていたラルカを心配してのことだ。


「いいえ、ブラントさま。ブラントさまが悪いわけではございません」


 ブラントに心配をかけていることは分かっている。けれど、ラルカは上手く自分を取り繕うことができなかった。
 申し訳なさを感じつつ、ラルカはそっと俯く。


「わたくしはただ……どうしたら良いか分からないのです」


 アミルには先程『ブラントの想いに応えるように』と言われた。

 彼の想いに応えること――――それは彼と別れ、自由にしてやることを意味するのだろう。

 簡単だ。
 たった一言、『婚約を解消しよう』と言えば済む話。
 元々そういう約束なのだし、期限が少し早まっただけだ。

 なのに何故だろう――――ラルカはどうしても、そう口にしたくなかった。


 メイシュから離れるという目的ならば、アミルの妃になれば叶えられる。
 仕事をしたいという願いも、ブラントでなくとも叶うだろう。

 けれど、ブラントの方の願いは、ラルカと婚約していたら、永遠に叶うことがない。


 手放さなければ――――わたくしでは駄目なのだから。


 ラルカの瞳から涙がポタポタと零れ落ちる。


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