【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
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 イベントはそれ以降も、つつがなく進んでいく。


 模擬剣技の披露は昼頃、ブラントとアミルが登壇した。

 見目麗しい二人の剣技は、男児や男性だけでなく、女性をも強く惹きつけ、会場はその日一番の盛り上がりを見せた。

 舞台袖でブラントの勇姿を見守りつつ、ラルカはほんの少しだけ眉根を寄せる。


(なんで? どうしてこんな風に感じるのかしら?)


 ブラントは騎士で。剣を振ることが仕事で。
 普段は見ることのできない彼の様子をカッコいいと思うのに、それ以上に何か、別の感情が邪魔をする。


「あら。ラルカでも嫉妬をするのねぇ……あんなに分かりやすく愛されてるのに、不安になるものなの?」


 エルミラがそう言って、隣で肩を震わせる。


「これが……嫉妬?」


 お腹の中で真っ黒な何かがグルグルと渦巻いているかのような感覚。ラルカは胸に手を当てつつ、観客に向かって手を振るブラントを見つめる。

 請われて女性と握手をしている姿を見たときには、その感情はよりハッキリと鮮明に表れた。

 不安とは違うかもしれない。
 だが、全くもって良い気はしない。
 彼は――――ブラントは――――ラルカだけのものなのに。


「あの、俺と握手をしていただけませんか?」

「へ? 握手? わたくしと、ですか?」


 そんなことを思っていたら、今度はラルカの方が唐突に握手を請われてしまった。


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