【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
「けれど、わたくしはしがない女官でして……」


 隣りにいるエルミラならば、喜んで握手に応じてくれるだろう。王族との触れ合いを喜ぶ国民は多い。彼女の隣りにいたから、ラルカもそういう存在だと勘違いされてしまったのだろう。


「それで良いんです! 先程、女の子たちと握手をしていらっしゃったでしょう?」

「え? それは……子供たちの夢と希望を守るためと申しましょうか、お願いされたら断りづらくて」

「俺も同じです! 今日という日の記念に、是非!」


 そんな風に言われてしまったら断れない。ラルカは男性の手をギュッと握る。
 ふと顔をあげると、男性の背後に人だかりができていた。皆、ラルカを真っ直ぐに見つめている。どうやら握手待ちをしているらしい。一人にオーケーを出した以上、断ることはできないだろう。


(困ったわ、そろそろブースに戻らないといけないのに)


 皆、面白がって列に並んでいるだけだ。そうと分かっていても、邪険にすることはできない。
 これは公務で。
 公益に繋がりうることで。
 ラルカの行動一つで、人々が国へ抱く印象が良くも悪くもなるのだから。
 けれど―――


「ラルカ、そろそろ戻らないと。あちらのブースで皆様お待ちかねですよ」


 数人と握手を交わしたところで、ブラントがラルカの肩を叩く。
 助かった――――ラルカは密かに胸を撫で下ろす。
 残った男性に「申し訳ございません」と口にしつつ、ブラントは有無を言わさずラルカの向きを変えた。

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