【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
「――――ですから、ブラントさま。
わたくしは今しばらく、結婚をすることができません」


 ラルカはそう口にしながら、とても静かに瞳を閉じた。

 こうして結婚について、きちんと話をするのは初めてのこと。たとえ想いが通じ合っていても、向かおうとしている方角が異なれば、人の関係は簡単に崩れてしまう。そうと分かっているから、ブラントの答えを聞くのは少しだけ怖い。


「構いませんよ」


 けれど、ブラントは間髪入れずにそう答えると、至極優しく微笑んだ。
 彼の瞳には迷いも憂いの色もない。ただただ愛しげにラルカのことを見つめている。


「そんなことは元より覚悟のうえです。僕は何年でも、何十年でも、貴女を待つつもりでしたから」


 ラルカの瞳に涙が滲む。ブラントはゆっくりと、その場に跪いた。


< 205 / 219 >

この作品をシェア

pagetop