【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
「ふふ……こうするのよ」


 赤ん坊の頭と身体を支えるように腕の位置を調整され、少しだけ抱っこが安定する。けれど、母親とは違うとわかるのだろう――赤ん坊はラルカをまじまじと見つめつつ、ふにゃ、と小さく声を上げた。


「ブラントさま……見てください! 赤ちゃんってこんなに可愛いんですね」


 ラルカが満面の笑みを浮かべる。ブラントは「本当に」とうなずきながら、胸が温かくなっていた。


「正直ね……私、子どものことは諦めていたの。結婚して六年も経つのに、一向に妊娠しなかったから」


 メイシュがポツリと本音を漏らす。ラルカは「姉さま」と言いながら、メイシュのことをそっと見つめた。


「だけどね、これまでの私にはきっと、まともな子育てなんてできなかった。子どもを縛り付けて、自分の理想を押し付けて、苦しめることになっていた。だから、出産が今になってよかったと私は心からそう思っているの」


 ラルカとブラントは顔を見合わせる。二人はもう一度、メイシュのほうへと向き直った。


「ラルカ……これまで本当にごめんなさい。この子を授かったことで、私は改めて、あなたに酷いことをしてきたと思い知ったわ」


 メイシュが静かに頭を下げる。


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