【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
(本当に、ラルカと婚約したんだなぁ……)


 幸福感に、達成感、安堵といった感情が、勢いよく押し寄せてくる。
 ――――と、その瞬間、ヒュッと風を切る音が背後から聞こえ、ブラントは腕を振り上げた。


「おい、誰がわがままだ、誰が」

「殿下……盗み聞きをするなんて、趣味が悪いですよ」


 振り返ることすらせず、ブラントは苦笑を漏らす。
 彼の背後には、尊き身分の主人――――アミルが一人で立っていた。


「盗み聞きをさせたくなるようなことをするお前が悪い。相当目立っていたぞ」

「まあ、そうでしょうね」


 ラルカは騎士や文官たちのマドンナだ。羨望の眼差しを一身に受けていたことは、十分自覚している。


「大体、俺は今日、遅くなるような予定を入れてないぞ」

「それは嘘も方便というやつです。ラルカに要らぬ心配をかけたくありませんから。
第一、予定などなくとも、殿下はこうして自由気ままに城内のあちこちへお出ましになっていらっしゃるでしょう? 普段、貴方の行動に振り回されているのは事実ですし、少しぐらい名前を貸していただいてもバチは当たらないと思います」


 ブラントはため息を吐きつつ、アミルの方を見遣る。

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