【電子書籍化】独身貴族になりたいんです!〜毒姉回避のために偽装婚約を結んだ人形令嬢は、エリート騎士に溺愛される〜
「お前はお前で他の男にラルカ嬢の婚約者の座を奪われたくない。当然、自分以外の男と結婚だってしてほしくない。
だから、仮初の婚約者という立場を利用して、ゆっくりと彼女との仲を深めていこうと――――そういう魂胆だな。最終的には自分と結婚してほしい、と」

「分かっているなら、皆まで言わないでください……」


 アミルはとかく、感情や行動を先読みする能力に長けている。過去、幾度となく己の考えを読まれてきたブラントは、降参するしか道がないことを悟った。


「それで? 婚約が理由じゃないなら、何がラルカ嬢を落ち込ませていたんだ?」


 アミルの問いかけに、ブラントは神妙な面持ちを浮かべ、しばし押し黙る。

 いくら相手が王太子であっても、ラルカの家庭環境を勝手に話すわけにはいかない。
 ブラントは無言で、次の駒を進めた。


「今朝、馬車で一緒に出勤していた上、先程は夕食、朝食の話が出ていた。つまり、彼女はこれから、お前の屋敷で生活をすることになったのだろう?」

「…………」


 ブラントの返答を待たず、アミルが勝手に推理を進める。駒がまた一つ進んだ。


「おまけに、今朝のラルカ嬢は見るからに元気だった。たった半日で、あんなにも状態が改善することは中々ない。何故か――――憂いの元凶から完璧に隔離されたと考えるべきだ」


 状況を整理しているようにも聞こえるが、アミルの中では既に結論に行き着いているのだろう。ブラントは尚も口を噤み、アミルのことを見つめ続ける。


「なるほど。つまりは彼女の家庭環境に問題があるわけだ」


 ポンという軽快な音とともに、チェス盤が鳴る。ブラントは静かにため息を吐いた。


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