ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「その……冬真、悪ぃ。しくった」
大雅は繕うように言った。
振り向いた冬真は微笑みを湛えたが、目がまったく笑っていない。
琴音と相対した結果に不服なのもそうだが、大雅の記憶について吟味しているというのもあるだろう。
果たして、冬真も律も彼の記憶は回復していないと判断してくれた。
取り戻していたら、普通はのこのこと現れたりしない。二の舞になるのを恐れるはず────二人の結論は、大雅の思惑通りだった。
そのとき、キィ、と金属音を響かせながら扉が開く。
「……胡桃沢か」
肩を小さく震わせ、不安定な足取りで歩く瑠奈を認め、律が言った。
よく生きていたな……、と冬真は内心驚いた。
さすがに殺されてもおかしくなかったはずだが、逃げ切ったのだろうか。
自分が最後に見たときは、瑠奈の意識はなかった。どう生き延びたのだろう。
「何か、大丈夫かよ? 何にそんなに怯えてんだ」
「殺される……琴音ちゃんに……」
瑠奈は掠れたような声で呟いた。
それを聞いた律は面倒そうにため息をつく。
「厄介だな。瀬名の能力には、どう対処すべきか」
冬真は天を仰いだ。さすがの彼も手を焼いているようだ。
すっかり恐れをなしている瑠奈に、大雅は淡々と事実を告げる。
「お前の石弾が、望月慧を殺した」
瑠奈は瞠目し、弾かれたように顔を上げた。
「嘘……!?」
琴音の仲間を死なせてしまったとなると、さらに恨みを買ってしまっていることだろう。
でも────と思う。琴音に殺す気があるなら、もうとっくに殺していたのではないだろうか。
「……何があった? 瀬名から逃げ切ったわけじゃないのか?」
「気絶させられて、目が覚めたら公園にいたの……。たぶんあたしが気を失ってる間に飛ばされたんだと思うけど」
律は険しい顔で、思案するように顎に手を添えた。
「分からないな。瀬名はどういうつもりでそんな行動を……?」
何故、恨めしいはずの瑠奈を公園などという安全な場所へ移動させたのだろう。
何とも腑に落ちない。冬真も瑠奈も難解な表情を浮かべた。
「もしかしたら、俺たちを殺せない理由があるのかも」
律は自答するように推測を口にした。
大雅は眉を寄せる。視線を彷徨わせた。
その結論で落ち着かれると“殺されることはないのだから”と、躊躇なく仲間たちを襲い始めるかもしれない。
何か言うべきだろうか。しかし、下手なこと言って記憶が戻っていることが露呈すれば、また同じことの繰り返しになる。
大雅が逡巡していると、先ほどのように屋上のドアが開いた。
各々が反射的にそちらを振り返る。