ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
そこにいたのは、フードを目深に被った男子高校生だった。
ヨルだ。大雅は以前に一度だけ相見えた、冬真のもう一人の仲間の存在と照合する。
瑠奈もそう閃いた。訳ありだという、謎の彼。
「あ? ……誰だ、お前」
ヨルはフードを少し持ち上げ、見慣れない瑠奈を睨めつけた。
男子ながら顔立ちはどちらかと言えば可愛らしいが、その頬には返り血が光っている。
それでも血に飢えたような眼差しは鋭く、視線は残光を帯びているように錯覚してしまう。
「新顔か?」
「あ、く、胡桃沢瑠奈です……」
何となく萎縮してしまいながら、瑠奈は名乗った。
ヨルは目を細め「ふーん」とだけ返すと、興味なさげに屋上の縁の方へ歩いて行く。
自己紹介など返す気はないらしいその様子を見兼ね、律が代わりに説明した。
「こいつの名前はヨル。本名は……早坂瑚太郎」
律は初めてヨルの素性を明かした。
その名に大雅は瞠目する。陽斗を襲った犯人だと疑われている魔術師だ。
しかし、律の独断で明かして良かったのだろうか。
大雅はつい冬真を窺った。一瞬だけ目が合い、すぐに逸らされる。……反応を見ていたのかもしれない。
そう気が付いた大雅は、隙を見せないよう慌てて気を引き締めた。
情報を餌に大雅の反応を窺い、処遇を判断するつもりだ。
そういう意味では、大雅にとって正念場かもしれない。記憶が懸かっている。
悠々と立っていたヨルは、律の言葉に勢いよく振り返った。
「本名だ? 何言ってんのか分かんねぇな! オレはオレだよ」
瑠奈はヨルの態度に首を傾げてしまう。
何を言っているのか分からないのは瑠奈の方だった。大雅も思わず眉を寄せる。
「……こいつは、所謂“二重人格”なんだ。メインの人格は瑚太郎で、裏人格がこのヨル。夜の間はずっとこいつに乗っ取られてる」
その話は大雅も初耳だった。
律は淡々と説明を続ける。
「瑚太郎の方は穏やかな性格だが、ヨルの方は正反対。狂気的で残忍で、夜な夜な魔術師を殺し回ってる。水魔法使いの魔術師だ」
合点がいった。陽斗を襲ったのは間違いなく瑚太郎だが、正確には瑚太郎ではなくヨルの方だ。
そして、ヨルの頭の中が真っ暗なのは、ヨルが本来存在しないはずの裏人格だからだ。
程なくしてテレパシーが切断されたのは、日が昇って瑚太郎に戻ったからだ。
ヨルを取り巻いていた謎が霧消すると同時に、どうしたものか、という次なる課題が湧く。
仲間たちは既に瑚太郎と接触してしまった。
彼を仲間に引き入れる判断は先延ばしになったようだが、蓮の魔法を思えば、下手に敵対するべき相手ではない。
かと言って、素直に受け入れるのがベストとも言い切れない。
瑚太郎自身に悪意や敵意がなくとも、彼にはヨルという厄介な存在が付随してきてしまうのだ。