ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 ヨルは不意に、律の胸ぐらを勢いよく掴んだ。

「何が“裏”だ。乗っ取られてる? ふざけたこと抜かすな。オレはオレなんだよ! 誰かの影みてぇなこと言ってんじゃねぇ」

 乱暴な口調とその迫力に瑠奈は圧倒されてしまうが、律は慣れた様子で「悪かった」と謝った。

 不服そうな表情ながら、ヨルは舌打ちして律を解放する。

 しかし、想像の域を出ないが、ヨルの怒りは瑠奈にも理解出来る気がした。

 彼にとっては自分はヨル以外の何者でもないのだ。

 裏だの表だのそんなものは存在しない。それなのに偽物のような扱いを受ければ、それは腹も立つだろう。

 瑚太郎をどう扱うべきか大雅は頭を悩ませていたが、困苦しているのは冬真も同じだった。彼の場合は琴音についてなのだが。

 やはり、琴音が万全の状態では、瞬間移動させられて終わりだろう。

 大雅たちがしたように、魔法の連続使用で無理矢理疲弊させたところを狙うしかない。

 だが、もう同じ手は通用しない。

(僕の顔も知られちゃったしなぁ……)

 冬真は、はたと思いついた。そういえば────。

 高架下で相見えたとき、右手を封じられた彼女は為す術なくやられようとしていた。

 冬真は興がるように口角を持ち上げる。

(そっちの弱点の方がよっぽど脆い)

 ゆったりと立ち上がると、律に触れ傀儡にする。

「瑠奈。瀬名琴音と会うんだ」

 思わぬ冬真の言葉に、瑠奈は「へ!?」と素っ頓狂な声が出た。

 何を言い出すのだろう。“死ね”と言われたも同然だ。

「無理無理無理! 会った瞬間────」

「殺されない」

 先んじて冬真は断言した。

「何かは分からないけど、瀬名琴音やその仲間たちには、僕らを殺せない理由がある」

 あの状況から生還したのがその証拠である。

 律も言っていたが、その点は瑠奈も「確かに」と頷く他ない。

「そして……あの子の魔法を封じる方法がある。君には、それが出来る」

「えっ!?」

 大雅の瞳が揺れた。……まずい。

 瞬間移動の発動条件は、利き手で対象に触れること────冬真にはどうやらそこまでバレてしまっているようだ。

「瀬名琴音の右手を石化するんだ。そうすれば、あの子は魔法を使えない」

 瑠奈は高架下での出来事を思い出した。

 冬真が瑠奈を利用し、琴音の脚と右手を石化したとき、確かに彼女は何も出来ないでいた。

 琴音にそんな弱点もあったとは、と瑠奈はほくそ笑む。すっかり自信を取り戻した。

「……分かった」

 当然、右手だけで済ますつもりはない。全身を石化し、砕いてやる。

 瑠奈は強気な表情で冬真に頷いて見せた。
< 109 / 338 >

この作品をシェア

pagetop