ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
ヨルは不意に、律の胸ぐらを勢いよく掴んだ。
「何が“裏”だ。乗っ取られてる? ふざけたこと抜かすな。オレはオレなんだよ! 誰かの影みてぇなこと言ってんじゃねぇ」
乱暴な口調とその迫力に瑠奈は圧倒されてしまうが、律は慣れた様子で「悪かった」と謝った。
不服そうな表情ながら、ヨルは舌打ちして律を解放する。
しかし、想像の域を出ないが、ヨルの怒りは瑠奈にも理解出来る気がした。
彼にとっては自分はヨル以外の何者でもないのだ。
裏だの表だのそんなものは存在しない。それなのに偽物のような扱いを受ければ、それは腹も立つだろう。
瑚太郎をどう扱うべきか大雅は頭を悩ませていたが、困苦しているのは冬真も同じだった。彼の場合は琴音についてなのだが。
やはり、琴音が万全の状態では、瞬間移動させられて終わりだろう。
大雅たちがしたように、魔法の連続使用で無理矢理疲弊させたところを狙うしかない。
だが、もう同じ手は通用しない。
(僕の顔も知られちゃったしなぁ……)
冬真は、はたと思いついた。そういえば────。
高架下で相見えたとき、右手を封じられた彼女は為す術なくやられようとしていた。
冬真は興がるように口角を持ち上げる。
(そっちの弱点の方がよっぽど脆い)
ゆったりと立ち上がると、律に触れ傀儡にする。
「瑠奈。瀬名琴音と会うんだ」
思わぬ冬真の言葉に、瑠奈は「へ!?」と素っ頓狂な声が出た。
何を言い出すのだろう。“死ね”と言われたも同然だ。
「無理無理無理! 会った瞬間────」
「殺されない」
先んじて冬真は断言した。
「何かは分からないけど、瀬名琴音やその仲間たちには、僕らを殺せない理由がある」
あの状況から生還したのがその証拠である。
律も言っていたが、その点は瑠奈も「確かに」と頷く他ない。
「そして……あの子の魔法を封じる方法がある。君には、それが出来る」
「えっ!?」
大雅の瞳が揺れた。……まずい。
瞬間移動の発動条件は、利き手で対象に触れること────冬真にはどうやらそこまでバレてしまっているようだ。
「瀬名琴音の右手を石化するんだ。そうすれば、あの子は魔法を使えない」
瑠奈は高架下での出来事を思い出した。
冬真が瑠奈を利用し、琴音の脚と右手を石化したとき、確かに彼女は何も出来ないでいた。
琴音にそんな弱点もあったとは、と瑠奈はほくそ笑む。すっかり自信を取り戻した。
「……分かった」
当然、右手だけで済ますつもりはない。全身を石化し、砕いてやる。
瑠奈は強気な表情で冬真に頷いて見せた。