ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「待って、駄目。私たちは誰も殺さないって決めたの」

 小春は言った。彼女たちにも笑われるだろうか。

 それでも、この主張だけは譲れない。相容れないのであれば、同盟も諦める他ない。

「どうして……?」

 紗夜が翳った瞳を小春に向けた。うららも不思議そうな表情で答えを待っている。

「……私たちにそんな資格はないから。殺したら、運営側に踊らされてるのと同じだよ。私たちは皆同じ立場なの。だから、殺し合うんじゃなくて助け合いたい」

 何だか緊張した。これまでもこうして意見を言うことはあったが、今回はわけが違っていた。

 紗夜たちがアリスのような考えの持ち主なら、協力は絶望的なのだ。

 小春の答えが、彼女たちとの道を決定するように思えた。

「……ふーん、まぁそれも一理あるかも。ちょっと悠長過ぎる理想かもだけど」

 ややあって、紗夜は言った。

 全面的に肯定し支持するわけではないが、理解も納得も出来る。

 その理想を追えたら、どんな結末を迎えても後悔だけはしないでいられそうな気がした。

「一理どころか十理も百理もありますわ。わたくしは何て愚かな勘違いをしてたのかしら……。まんまと力に溺れて恥ずかしいですわ」

 一方のうららは、小春の言葉に心から賛同したようだった。

 つい先ほどの自分の発言を取り消したいほどだ。

 力を得たからと思い上がって図に乗るなど、愚の骨頂でしかないというのに。

「……ま、情報も同志も増えたしともかく良かった。な?」

 蓮は小春を見やる。小春は顔を綻ばせ頷いた。

「大団円とはいかないでしょ……。如月たちのことはどうするの?」

 紗夜は冷静に言い放った。

 殺さないと言うのなら、脅威と分かっていながら放置するのだろうか。

 やられっぱなしなのに黙って耐えるなど、納得がいかないだろう。

 こちらに殺す意思がないと露呈すれば、彼らはさらに図に乗るかもしれない。

「わたくしに任せて」

 名乗りを上げたのはうららだった。

 強気な表情で微笑んで見せる。

「わたくしの魔法があれば、殺すことも傷つけることもなく如月さんを無力化出来ますわ」

「確かに……!」

 うららの磁力魔法により、冬真の魔法を奪ってしまうというわけだ。

 いくら冬真でも傀儡魔法を失えば、勢いは削がれるだろう。

 一同の間に、打開策が見つかった安堵と喜びの空気が流れた。

 喫緊ですべきことは運営についての情報収集だが、日々冬真たちからの襲撃に怯えなければならないくらいなら、さっさと片を付けた方がいい。

 まともに戦うつもりなどないこちら側にとって、彼の挑発に乗っている暇はないのだ。

「今夜にでも幕引きして来ますわ。桐生さん、彼らの居場所を教えてくださる?」

 大雅は眉間に皺を寄せつつ、うららを見返した。

 冬真から魔法を奪う────それが出来れば理想的だが、果たしてそう上手くいくだろうか。
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