ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
それに、もともと冬真たちと因縁があるのは他でもない大雅だ。
決着がつくにしろ、為て遣られるにしろ、その場に自分がいないのでは無責任過ぎる。
「……俺も行く」
もし失敗すれば、最悪うららの命はないだろう。
大雅は決然と険しい表情を湛えた。
囮でも何でもいい、自分に出来ることをするしかない。
────解散すると、一人になるのを見計らい、大雅は瑚太郎に声をかけた。
「お前、ヨルについて何処まで分かってんだ?」
夕陽が街を溶かしていく。もう少しで日が暮れる。
瑚太郎の中で静かに眠るヨルの息遣いが聞こえた気がした。
「えっと、だいたいのことは……」
自分とは正反対の荒々しい性格で、戦闘狂で、血も涙もない残忍な男。
物証がなければ、瑚太郎はそんなもう一人の自分の存在など信じられなかっただろう。
大雅はポケットに両手を突っ込んだまま、仏頂面で続けて問う。
「じゃあ、ヨルが冬真たちの一味だってことは?」
瑚太郎は瞠目した。驚いて息を飲む。
「嘘だ……」
「残念だけどマジだ。あいつらにもお前の素性は割れてる」
瑚太郎の顔色が悪くなっていく。絶望したような白い色と、動揺に揺れる瞳。
それを目の当たりにすると、ようやく大雅の警戒も解け、代わりに同情的な気持ちが募り出す。
意図せず瑚太郎を追い詰めているようだった。
彼には逃げ場がないのだ。
冬真の一味であるヨルに変貌すれば、仲間である小春たちを裏切るも同然だ。しかし、それを止める術はない。
仮に瑚太郎の自我がヨルに打ち勝ち、ヨルを永遠に封じ込めることが出来たとしても、瑚太郎の存在は冬真にバレている。
今度は彼を裏切ったとして、冬真に狙われるかもしれない。
「……そうだ。だったら、大雅くんが止めてくれないかな? 僕がヨルになったとき、テレパシーで」
縋るような眼差しを向けられたが、大雅は首を横に振らざるを得なかった。
「それは無理。ヨルにはテレパシーが使えねぇんだよ」
瑚太郎は愕然とし、ショックに打ちひしがれた。
本当にどうにも出来ないのだろうか。どうすればいい……?
大雅は思い悩む瑚太郎に目をやり、小さく嘆息した。
「俺はそんなに優しくねぇから、この話はここで打ち止めるぞ。皆に打ち明けるなら自分で言えよ」
瑚太郎は俯いた顔を上げない。
一見、突き放すような台詞だが、むしろ思いやりにあふれているような気がした。
大雅が仲間たちに事実を告げ口したなら、アリスや琴音は自分を拒絶するだろう。
「どうにか出来るのはお前だけだ。お前が自分で何とかするしかねぇよ。……悪ぃな」
踵を返し、大雅は歩き出す。
瑚太郎は黙って地面に視線を落とした。
伸びる長い影が、触手を伸ばしてくるような幻を見た。闇が絡みついて離れない。
自分ではない、自分の気配────夜が近づくたび、確実に存在感を増していく。
苦しい。いつの間にか捕らわれ、蝕まれていく現実。
いつか自分自身さえいなくなってしまうのではないかという恐怖。
渦巻く思考と揺れる感情に、我を見失いそうになる。
「痛……っ」
気付けば噛んでいた親指の爪が割れ、血が滲んだ。
鮮血が膨らみ、指の形に沿って流れる。
赤色が目に焼き付いた。その鮮やかさに飲み込まれ、瑚太郎の記憶が途切れた。