ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*



 冬真はやや苛立ったような雰囲気を醸しながらも、いつもの微笑を湛え、大雅に目をやった。

「……瑠奈は?」

 傀儡の律を介し尋ねる。大雅は記憶を辿った。

 瑠奈のことは小春から聞いていた。

 本当に改心したのかどうか怪しんでいたが、この場に現れなかったところを見ると、信じてもいいような気がする。

 馬鹿正直に冬真から逃げ出したようだが、案外その選択は正しいのかもしれなかった。

 それが出来なかった自分は、こうして今も冬真の呪縛に囚われている。

「さぁな。返り討ちにでも遭ったんじゃね?」

 大雅が律を利用し、瑠奈の記憶を操作したことを、冬真は知らない。

 彼は瑠奈が琴音の右手を石化してくるものだと思っていることだろう。

 大雅の言葉を受け、冬真は顎に手を当てた。

「電話もメッセージも応答なし。ね、テレパシーで連絡取ってみてよ」

「切断されたよ。意図的に切ったのか、意識がないのかも分かんねぇ」

 大雅はあっけらかんとして嘘をついた。

 罪を悔い(あがな)おうという瑠奈の覚悟を()んでやることにする。

 冬真はゆっくりと目を閉じ、深々とため息をついた。

「急がば回れってことかな……。こうなったら、瀬名琴音は一旦放置だ。どうせ向こうは僕らを殺せない。ムキになって執心する必要はない」

 大雅はなるべく無感情でいるよう努めた。

 少しでも反応すれば、また疑われた挙句に記憶を奪われるかもしれない。

 自分は冬真の言いなりであり、小春たちとは手が切れている────彼にはそう思わせなければならない。

 冬真は夜空を見上げ、意識的にゆっくり呼吸をした。冴えた空気が、苛立ちで曇った視界を晴らしてくれる。

 ……焦る必要などない。

 琴音は命を狙われていると知りながら、逃げも隠れもしないのだ。

 自分を狙う相手を知りながら、攻撃をし返してくる度胸もない。

 それほど愚かで間抜けな女一人くらい、いつでも殺せるはずだ。そんなことよりも────。

(殺すべき敵は、彼女だけじゃない)

 時間操作系の魔術師も硬直魔法の魔術師も未だ見つかっていないのだ。

 琴音のせいで目的を見失うところだった。

「じゃあやっぱり、まずは星ヶ丘の魔術師リストを完成させようか」

 灯台もと暗しというように、忌むべき相手は案外近くにいるかもしれない。

 大雅は油断なく冬真を見た。

 ひとまず琴音に迫っていた危険は逸れたが、今度は奏汰が危ない。

 ……いや、それについては自分の裁量次第だろうか。

 奏汰の存在を隠せば、狙われずに済む。大雅が絶対服従さえさせられなければ、冬真のことも欺き通せるはずだ。
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