ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「ね、大雅」

 そんなことを考えていた矢先、冬真に呼ばれた。

 悪い予感を抱かずにはいられないほど、甘ったるい声色だった。

「……あ?」

 大雅が不機嫌そうに冬真を見やれば、彼は律を伴って正面に立った。

 向けられた氷のような笑顔に、心臓が嫌な音を立てる。

「やましいことがないなら、僕の目を見て。一度でも逸らしたら記憶を消す」

 駆け巡る驚きと疑問符のために思わず冬真の目を見つめかけ、慌てて顔を背けた。

 飛び退くようにして距離を取る。

(何でだよ、くそ……。何でいつもこうなる?)

 何処かで失敗しただろうか。何か怪しまれるような挙動をしただろうか。

 完璧に立ち回っていても、どうしていつも最終的に疑われるのだろう。

 戸惑う大雅とは裏腹に、冬真は楽しそうに笑った。

「あはは、大雅って本当分かりやすいなぁ。そんな反応したら、やましいことがあるって認めたも同然だよ?」

 そんなことは承知の上だ。大雅は奥歯を噛み締める。

 しかし、あのまま大人しく冬真と目を合わせたら、結局記憶を改竄されて駒になるだけ────冬真はそういう人間だ。

 疑わしきは罰するつもりなら、逃げる以外に選択肢がないではないか。

「うるせぇ……。だったら何だってんだよ。俺のこと殺すか?」

「へぇ、開き直るんだ」

 興味深そうに冬真は笑みを深める。

 大雅自身にはこの状況を打開する術がなかった。

 例えば律に触れ、律を操作して冬真の記憶を消せたらベストだが、律は今傀儡状態だ。大雅に手出しは出来ない。

 ……ひたすら待ち続けるしかない。時間を稼ぐしかない。

 冬真を破ることが出来るかもしれない希望(、、)の訪れを。

「よし、決めた。やっぱり君の記憶は消しておこう」

 冬真が迫る。大雅は慎重に後ずさった。

 “やっぱり”という言葉に、理解出来た気がした。

 大雅がどれほど巧妙に立ち回ったところで、最後には疑われる理由────。

 驚くほど単純だった。冬真が、端から大雅を信用していないというだけだ。

 疑わしくともそうでなくとも、保険として記憶を書き換えておきたいのだろう。抵抗されないよう、絶対的に服従させたいのだろう。

「手荒な真似はしたくないんだ。大人しく従ってくれ」

 冬真の手が伸びてくる。大雅を押さえ込んで無理矢理目を合わせるつもりだろう。言葉とは真逆の魂胆だ。



「────大人しくするのはあなたの方ですわよ、如月さん」

 不意に声がした。屋上の中心に一人の女子生徒が立っていた。星ヶ丘高校(ここ)の生徒ではないが。

「は……?」

 冬真は突如として現れたうららを見据えた。その表情が不興に消える。
< 130 / 338 >

この作品をシェア

pagetop