ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
うららは冬真に向かって両手を翳した。
掌から彼までの軌道にある空気が揺らぎ、細い電光が空中を走る。
その光景に冬真は戸惑いを見せた。その隙にうららは彼を一気に引き寄せる。
「……っ」
靴裏が地面を滑る。踏み留まろうにも、引っ張られる力の方が圧倒的に強い。
(もしかして、磁石的なことか……?)
そう思い至ると同時に、ふわ、と身体が宙に浮いた。ひやりとする。
例えばこの浮遊が地面と反発し合っていることによるものだとしたら、高度を上げた上で、今度は地面と引き寄せ合うように操られるのではないだろうか。
それは、冬真の身体が地面に叩きつけられることを意味する。潰れて原型も留めないかもしれない。
しかし、冬真の案ずるように高度が上がることはなかった。うららの加減か、魔法の制限かは分からない。
後者であれば、冬真が浮いたのは浮遊や飛行といった魔法のせいではないということだろう。やはり磁力なのだろうか。
「心配いりませんわ。あなたに危害を加えるつもりはないから」
うららは揚々と言った。それが本当なら、どうやら恐れる必要は何もなさそうだ。
琴音もその仲間や味方も、一様に“殺し”を禁忌としているらしい。
それなら、こちらが一方的に手出し出来る。ワンサイドゲームというわけだ。
冬真はしたり顔で口角を持ち上げる。
引き寄せられるのに身を任せた。物理的に距離が縮まるということは、冬真にもチャンスが訪れるということである。
手の届く位置まで来ると、冬真はうららに触れられる前に、その髪を強引に掴んだ。
「痛……っ」
ハーフアップにしてまとめていた縦巻きの髪が、くしゃりと乱雑に崩れる。
思わぬ反撃を食らったうららは痛みに顔を歪めた。
「大丈夫か。……おい、冬真」
「何? 君に僕を咎める権利があるの? 裏切り者の言葉を聞く必要なんてないでしょ」
寄越された冷酷な視線と正論に、大雅は口を閉じる他なかった。
だからと言ってうららを傷つけていい理由にはならないのだが、反論しても冬真には届かない。
「うらら! 弾き飛ばせ!」
大雅は声を張った。
磁力による魔法の奪取を一旦諦めてでも、安全の確保を優先するべきだ。
このまま冬真のペースに飲まれたら、最悪うららも記憶を書き換えられ、絶対服従させられる。
「……っ」
うららは大雅の言う通りにしようと、再び冬真に手を翳した。今度は引き寄せるのではなく、反発させ弾き飛ばす。
危機を察知した冬真は、さらに強く彼女の髪を引っ張った。空いている方の手でうららの手を払うと、彼女の首を絞めるように掴む。
「うぅ……!」
「やめろ!」