ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 二人の方へ踏み出した大雅を、不意に傀儡の律が止めた。

 一瞬の戸惑いのうちに、彼のネクタイにより手首を後ろでまとめ上げられる。

「お前……」

「動くなよ、大雅。一歩でも動いたらぜんぶリセットする」

 いつもより低いトーンで律が言った。いや、実際には冬真の言葉だ。

 大雅の記憶を盾に、うららを殺す気かもしれない。

「ふざけんなよ、てめぇ。離せよ!」

「はぁ? よく言うよ、先に仕掛けてきたのはそっちのくせに」

 冬真は嘲笑する。

 大雅が抗うような言葉を発するたび、うららの首は強く締め付けられた。

 冬真の非道かつ巧妙なやり口は、二人の動きを完全に封じてしまった。

「く……っ」

 声にもならない声がこぼれる。うららはうっすらと目を開けた。

「おい、駄目だ。目閉じてろ!」

 大雅は慌てる。苦しいだろうが、そうして目を合わせたら冬真の思うツボだ。

 しかし、うららに大雅の言葉は届かなかった。

 キィンと耳が鳴り、周囲の音が遠くに霞んでしまっていた。古い無線機を通しているようで、上手く聞き取れない。

 また、涙の滲んだ視界は、最早何を捉えているのかも定かではなかった。すべての輪郭が曖昧に歪む。

「残念、もう限界みたいだよ。五、四、三……」

「やめろ!!」

 大雅は叫び、駆け出した。

 しかし、踏み出した一歩が着地する前に、律が引き止めた。

 後ろ襟を掴むという乱暴な止め方だったが、結果的に大雅の記憶は救われた形となる。

 しかし────。

「……二、一。はい、僕の勝ち」

 結局、うららは救えなかった。

 抵抗も叫びも虚しく、絶対服従の術にかけられてしまったのだ。

 冬真はうららから手を離した。彼女はそのまま地面に崩れ落ち、咳き込みながら必死で呼吸を整えていた。

 呆然とする大雅に対し、冬真は満足気な微笑みを湛える。

 それはそうだろう。大雅の裏切りを暴いただけでなく、琴音を潰すための新たな人質(こま)を手に入れたのだから。

 大雅は悔しさを顕に険しい表情で冬真を睨みつけた。

「……クズ野郎」

「あはは、言ってなよ。作戦が甘かったんじゃない? 今さら何言ったって所詮、負け犬の遠吠えってやつ」

 何も言い返せなかった。確かにその通りだろう。

 自分はうららに委ね切りで、そのうららは自身の能力を過信した。

 何処か、冬真を侮っていたのかもしれない。

「さぁ、次は君の番だ。これで何回目のリセマラ(、、、、)かな」

「させねぇよ。舐めんな」

 大雅は器用に腕を捩り、拘束から抜け出した。

 うららは冬真の手に落ちてしまったが、人質である以上、殺されることはないだろう。

 そう考えると、吹っ切れた。全力で抵抗し、逃げても大丈夫だ。

「強がりもほどほどにね。どうせ、君に出来ることなんてないんだから」

 冬真の言葉を受け流しつつ、大雅はうららを窺った。

 隙があればテレパシーを使い、彼女にかけられた絶対服従を解除したかったが、どうやらそんな余裕はないらしい。

「うらら、大雅を捕まえて」
< 133 / 338 >

この作品をシェア

pagetop