ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 冬真が命じると、うららは動き出した。先ほど冬真にしたように、今度は大雅に向かって両手を翳す。

「ご、ごめんなさい、桐生さん……。身体が勝手に────」

 戸惑いと動揺に明け暮れた。意思とは無関係に、身体が言うことを聞かない。

 うららの掌から大雅までの軌道が歪んだ。薄い紫色の細かな電光が走る。

「くそ……」

 大雅は駆け出した。軌道から逸れようと地面を蹴る。

 しかし、一度逸れても次から次へと磁場に吸い込まれてしまい、一向にドアの方へ辿り着けない。

 冬真たちならともかく、うららに手出しするわけにいかず、ひたすら逃げて避け続けることしか大雅には出来なかった。

 瑠奈がいなくなったお陰で石化による攻撃のリスクは免れたのに、代わりにうららが取り込まれてしまうとは────。

「そろそろ疲れたでしょ。諦めた方がいいんじゃない?」

 冬真は挑発したが、あながち間違っていなかった。

 いくら身体能力の高い大雅でも限界はある。息を切らし、肩で呼吸していた。

「うるせぇな……、そっちこそやべぇんじゃねぇか? 反動で死んじまうぞ」

「ご忠告どうも。その前に君を捕まえるから安心して」

 させてたまるか、と改めて身構える大雅だったが、不意に感じた背後の気配に振り返った。

 そこには、能面のような顔の律が立っていた。

 いつの間に距離を詰められたのだろう。……まずい。このまま触れられたら、記憶を奪われてしまう。

 そんなことを考えた矢先、うららが金切り声で叫んだ。

「逃げて! お願い、避けて!」

 ……遅かった。大雅の身体がうららの磁力に引き寄せられていく。

 律は陽動だったわけだ。本来の目的はこっちだった。

「……っ」

 一度引き寄せられ始めると、大雅に抗う術はなかった。

 まるで強力な掃除機に吸い込まれていくようだ。どれだけ踏ん張ってもその場に留まることなど到底出来ず、掴まれるようなものもない。

 うねりのせいか、やけに空気が重たく感じた。

「畜生……!」

 うららの傍らに冬真が歩み寄る。……終わった、またしても負けた。

 記憶も自我も取り上げられ、都合のいい駒にされるのだ。

 距離が詰まるたび、絶望への秒読みが進んでいるように思えた。

 ふわ、と身体が宙に浮く。嘆くように、思わず瞑目した。



「大雅くん!」
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