ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
聞き間違いかと思った。あるいは幻聴かと。
そうではなかった。本当に、目の前に彼女は現れた。
「小春……!?」
「こっち、掴まって!」
真っ白な羽根を羽ばたかせ、小春は大雅に手を伸ばした。
あれこれと深く考えている余裕などなかった。大雅はただ言われるがままに、小春の手を掴む。
先ほどよりもさらに身体が浮いた。うららの磁力魔法を脱し、小春の能力で浮遊しているのだろう。
「お前、何で────」
「あとで話すよ。とにかく今はここを離れよう」
小春は大雅の手を引いたまま、一気に高度を上げる。
「な……、誰だ。どうなってる!」
飛び立つ寸前、大雅は珍しく狼狽えた冬真の表情を見た。気味の悪いにやけ面よりお似合いだ、と心の内で毒づく。
うららに磁力を使われないうちに退散しようと、小春は羽ばたいた。
建物の間を縫いながら、速度を得るため高度を上げる。連なる家々や電柱を見下ろしつつ、学校を振り返った。
冬真たちは屋上から動いていない。追跡は免れそうだ。
「助かった。サンキューな」
大雅は視線を戻し、小春に言った。
「ううん、遅くなってごめん」
「いや……。つか、何で分かったんだ?」
小春は大雅の窮地を知って現れたようだった。
「実は紗夜ちゃんのスマホで、うららちゃんと通話繋いでたの」
大雅は、ああ、と思った。いつか琴音についた嘘を思い出す。
実際には、テレパシー魔法に通話を感知出来る能力などない。
「大雅くんを皆のところに連れて行ったら、うららちゃんのところに戻る」
「待て、それはやめとけ。危な過ぎる」
「でも……」
「磁力での魔法強奪作戦は失敗だ。一旦、態勢を整えるべきだろ。そうじゃねぇと、冬真に接触した奴全員がもれなく絶対服従させられて、律に記憶を書き換えられる」
うららが心配なのは理解出来る。だが、ここで小春が戻れば、利するのは冬真だ。
うららを利用し、小春のことまで絶対服従させるだろう。それを知れば、蓮も黙ってはいまい。そして乗り込んだ蓮も冬真の手に落ち────というようなことが容易に予測出来た。
冬真一人であればどうにか出来るかもしれないが、うららに磁力魔法を使われると、苦戦を強いられる羽目になるだろう。
「小春! 大雅!」
突如として名を呼ばれた。今のは蓮の声だ。小春は大雅の手を引き、一気に降下する。
下には蓮や奏汰、琴音、紗夜の姿があった。
しかし、ここは何処だろう。見慣れない風景に大雅は周囲を見渡しながら着地する。
もう使われていないのか、中途半端な舗装の一本道。
色の濃い木々が茂る中、ぽっかりと口を開けている古びたトンネル────深夜であることが不気味な雰囲気を助長させていた。
風が吹くと、はらはらと黒い木の葉が落ちる。トンネルの中の電灯は切れており、スマホで照らしていないと人もものも輪郭しか捉えられない。
「ここは?」
「新しい拠点だよ。高架下は冬真くんにバレちゃったから……」
小春が答えるなり、歩み寄ってきた蓮が小春の腕を引いた。反動で大雅の手が離れる。
そのとき初めて、高度十メートルを切っても彼の手を取ったままだったことに気が付いた。
「あ、ごめん。触れてないと飛ばせなくて」
「……知ってる。こっちこそ掴んだままで悪かったな」