ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
紗夜はそんなやり取りに構わず小春に問う。
「うららは……?」
不安気な表情を浮かべたのが、見えなくても分かった。
「通話も切れちゃった。小春、うららと話した……?」
「ううん、話せなかった……。ねぇ、やっぱり私────」
大雅の言葉に一度は納得したものの、紗夜の様子を見ていると揺れてしまった。
先ほどの要領で、うららのことも救出出来るのではないだろうか。
「ちょっと待て」
わずかに浮かび上がった小春の手を掴み、引き止めたのは蓮だった。
朧な月が少しだけ視界を明瞭にする。
彼はこの上なく真剣で、かつ切なげな表情をしていた。
「小春まで操られたらどうすんだよ。……俺、さすがに耐えらんねぇって」
初めて見る蓮の態度と正直な言葉に圧倒された。小春は思わず魔法を解き、地面に降りる。
「そうよ、小春。私たちと意図は違うけど、如月たちにも魔術師を殺せない理由がある。だから、百合園さんは殺されないわ。絶対服従の術にもかかってるわけだし」
琴音が言った。
冬真には、自身の駒にするため、という理由があるため、闇雲に魔術師を殺すことはないだろう。少なくとも今は────。
「俺も同意見。小春ちゃん、気持ちは分かるけど、ここは蓮に免じて堪えてくれないかな」
同調した奏汰は諭すように言う。紗夜からも反論は出ない。
うららの身を案じているのは全員同じだが、しかし琴音の言葉は正しいと思えた。いずれ救出に向かうとしても、今は時機でない。
「……分かった」
小春は憂うように宙を眺めつつ、小さく頷いた。
*
瑠奈は自室のベッドの上で膝を抱えていた。ぽた、ぽた、とあふれる涙が布団に染みを作っていく。
小春の受容と優しさを受け、自分を省みた。友を裏切り、友に手をかけた罪悪感が、涙となって現れた。
彼女が赦してくれたからこそ、あふれる涙なのだろう。
自身の両手を見下ろす。とっくに汚く穢れてしまった。
(でも、もう……これからは────)
瑠奈は袖口で涙を拭う。
「誰も、殺さない」
小春との約束を決然と呟く。
こんなゲーム、まともにやっていられない。魔法など特別な力ではない。術者を蝕むだけの毒でしかない。
やっと正気を取り戻した気分だった。
「────それじゃ困るんだよねぇ」
突如として、そんな暢気な声が響いた。部屋には瑠奈しかいなかったはずなのに、いつの間にか奇妙な男が入り込んでいた。
瑠奈は驚きを顕にし、クッションを盾に後ずさる。
ふわふわの白髪を持つその男は、しかし加齢による髪の変色ではないのだろう。声も雰囲気も若々しい。
少し着崩した和装を纏い、顔の上半分を覆うような半狐面をつけていた。
口元に笑みを湛えながら、悠々と机の上に腰掛けている。