ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 程なくして、彼から声が返ってくる。

『いや、それがな……昨晩、切断されたんだ。瑠奈が意図的に切断したのか、意識がないのかも分かんねぇ』

 奇しくも、大雅が冬真についた嘘が現実となってしまったのだった。



 昼休みになると、小春と蓮、琴音はいつものように屋上へ出た。

 大雅も瑠奈とは連絡が取れないこと、そして紗夜から聞いた話を共有しておく。

「何のつもりかしらね、瑠奈は。自分から消息を絶ったって言うなら、あいつの性分的に納得出来るけど」

 弱くて怖がりといった小心者の瑠奈のことだ。

 冬真が恐ろしくて逃げ出したか、琴音と顔を合わせるのが怖くて逃げ出したか、といった可能性もある。

「何か関係ありそうだけどな。紗夜の知り合いの魔術師と連絡取れなくなったのと、瑠奈の件と。タイミング的にも」

 蓮は険しい表情で言った。

 関連があるという方が危機と不安を感じるため、ただ逃げただけである方がいいと、小春は思った。

「……それはそうと、そろそろ百合園さんにかけられてた術が解ける頃じゃない?」

 推測の域を出ない話題を切り上げ、琴音は言った。

 はっとした小春はスマホで時刻を確かめる。

 星ヶ丘高校の屋上で一悶着あってから、そろそろ半日が経つ頃だった。

「本当だ。うららちゃんに連絡────」

 取ってみよう、と言い終える前に、うらら本人から電話がかかってきた。

 冬真からは解放されているのだろうか。やや警戒しながら、応答を躊躇う。

 そんな小春を他所に、蓮は勝手に“応答”のアイコンに触れてしまった。

「あ」

「大丈夫だって。電話でどうにかされることはねぇよ」

 仮に冬真がうららの近くにいたとしても、電話越しに話しただけでは何ともならないだろう。

 蓮は続けてスピーカーのアイコンをタップした。

『申し訳ないですわ!!』

 開口一番、うららは謝罪した。朗々とした声が響く。

 どうやら、あの後からずっと意識を失っていたらしい。冬真に気絶させられていたのだろう。

「大丈夫なの? 怪我とかしてない?」

「今何処にいるんだよ」

 小春と蓮が続けざまに問うと、うららは「ええ」と頷いた。

『無事は無事ですけれど、何処かと聞かれれば……分かりませんわ』

 三人はそれぞれ顔を見合わせた。

 分からない、ということは、うららはまだ冬真たちの手中にあるのかもしれない。

 術は解けたが捕らわれたまま、という可能性が高いだろうか。

『え? 何ですの、桐生さん……記憶?』

 不意にうららが一人で喋った。

 彼女の意識が正常に戻ったことに気付いた大雅が、テレパシーでコンタクトを取ったのだろう。

『ちゃんとありますわよ。わたくしが如月冬真の魔法を奪うと息巻いて向かったけれど、返り討ちに遭ったという記憶が! 我ながら情けないですわ』

 どうやら記憶の方も、消去や改竄された形跡はなさそうだ。

 小春たちはひとまず安堵の息をついた。琴音が尋ねる。

「ねぇ、そこはどんな場所なの?」

『そう、ですわね……。備品倉庫みたいなところですわ』

 うららが周囲を見回したのか、衣擦れの音がした。

「スマホは取られなかったの?」

『奪われたけれど、倉庫の中にあったから磁力で引き寄せましたわ』

 遠ざけられてはいたが、うららには手に取る手段があったわけだ。

『縛られてはいるけれど、ある程度の自由は効きますわ。ただ、大声を出しても誰も来ないし、外から音や声なんかもしませんわね……』

 いったい何処なのだろう。小春たちは困惑したように視線を交わす。

『俺が捜してみる』

 唐突に大雅の声がした。うらら個人へのテレパシーを、この場にいる全員に向けてのものに切り替えたのだろう。

『まだ校舎内だとしたら、旧校舎の備品倉庫かも』

 星ヶ丘高校の旧校舎は本校舎から少し距離があり、かなり荒れたものだった。

 使われていないのに取り壊しが行われないまま年月が過ぎ、瓦礫やガラスの破片が散乱している。

 そのせいで誰も近づかないのだ。そういう意味では、うららの隠し場所としてうってつけであろう。
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