ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「まぁ二十秒だけだけどねー。そんだけあれば充分かにゃ?」

 聞こえてきたのはふざけたような男の声だった。奏汰ではない。

 彼は琴音を離すと、冬真たちの方へ歩いていく。ふわふわの白髪と半狐面、それに和服……どう見てもここの生徒ではない。

「誰……!?」

 予想に反する事態に面し、琴音は思わず尋ねた。

 冬真の仲間なのだろうか。大雅からは何も聞いていないが。

「ボク? 通称、祈祷師(きとうし)。ま、呼び名なんてどーでもいいさな。キミは今から死ぬんだからね」

「祈祷……? 魔術師とは違うの?」

「違うよ、魔法は使えるけどね。……ってもうボクに質問しないでくれる? つい答えちゃうじゃん。時間稼ぎのつもりー?」

 確かに時間稼ぎでもあったが、理解不能な事態に晒され聞きたいことが山ほどある、というのもまた事実だった。

 “祈祷師”なんて初めて聞いた。まさか、祈祷師は祈祷師同士でゲームが繰り広げられているのだろうか。しかし、それならば魔術師に手を貸す理由が分からない。

「さぁ、トーマっち。因縁のコトネンは目の前で動けなくなってる。殺るなら今しかないよ」

 祈祷師は冬真に向き直ると、やけに親しげな呼び名でそう言った。

 どういう繋がりがあるのだろう。まるで分からない。

 冬真はポケットの中から折りたたみ式のナイフを取り出した。普段からあんなものを持ち歩いているのだろうか。今さら驚きはしないが。

 琴音は鋭いナイフの切っ先を認めた。歩み寄ってくる冬真の靴音を聞いた。

 ────あれを退ける方法が、何かあるはずだ。

「そんなもので殺していいの?」

 琴音は冬真を見据える。

 最後の抵抗としての命乞いだろう、と高を括った彼は、緩慢とした動きでその眼差しを受け止めた。

 琴音はそのとき、不意に身体の硬直が解けたことに気が付いた。二十秒が経過したようだ。

 しかし、状況を覆す隙を見出すため、そのままの姿勢を保った。

 ふ、と唇の端を持ち上げ、勝ち誇ったような表情を作ってみせる。

「あなたが喉から手が出るほど欲してる硬直魔法……、持ってるのはこの私よ」

 琴音のはったりに、冬真は驚いたように息を飲み動きを止めた。律も瞠目している。

 本来の持ち主は奏汰であり、半狐面の彼が何故それを使えたのかは分からない。

 だが、この場においては、この嘘は通用するはずだ。そして、それが切り札となるはずだ。

 琴音は追い討ちをかけるように続ける。

「魔法は魔法で殺さないと奪えない。そんなもので私を殺しても、あれだけ求めてた硬直魔法は得られないわ。残念だったわね」
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