ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「おいおい、トーマっち。キミにはカノジョを殺す魔法(しゅだん)がない。諦めてボクに────」

 祈祷師がそこまで言ったとき、不意に琴音が目の前に現れた。

 瓦礫の山から拾ったであろう鉄棒が振り上げられる。

 祈祷師は身を逸らして避け、そばにいた冬真も律に引っ張られ距離を取った。

「鼬ごっこはもう飽きたわ。私がここであなたたちを葬る」

 琴音は鉄棒を構え、決然と告げる。瞬間移動で逃げるつもりはもうなかった。

 素早くうららを窺う。微動だにせず、口も開かない。冬真に命じられているのだろう。

 彼を殺せば術は解けるだろうが、それは最悪の手段だ。

 彼らを気絶させ、拘束しておく。そして、うららの能力で魔法を奪う────。

 それが、この状況で冬真たちを破る唯一の方法だろう。

「……っ!」

 冬真は尚も祈祷師に訴えかけていた。何がなんでも、琴音は自分の手で殺さなければ。

 冷静さを欠いている彼は、うららへ命令したり律を傀儡にしたりすることなど頭にないらしく、 琴音殺害に意地になっていた。

 琴音としては、お陰でうららを敵に回すこともなく、傷つける心配もなかった。

 祈祷師は嘆息し、ふっと笑みを消す。

「ボクの邪魔しないでくれる?」

 これまでの飄々とした態度とは一転、苛立ったような冷たい声色だった。

「ボクはキミに手を貸した、それはキミの狙いがボクと一致してたからだ。ボクは別にあいつらが死にさえすれば、手を下したのが誰かなんてどーでもいい……」

 “あいつ()”? 琴音は怪訝そうに眉を寄せる。

 祈祷師は再び笑みを湛えると、冬真に向き直った。

「キミには機会をあげただろ。でも、くだらない執着でそれを無駄にした。もうキミに用はない。下がってろ」

 そう言うや否や、琴音に向かって雷撃が放たれる。

 琴音は飛び退いて回避するとすぐさま駆け出した。旧校舎の中へ逃げ込む。

 “立ち入り禁止”とあったが、気にしてはいられない。

 冬真と祈祷師は仲間割れしたようだ。好都合だ。

(それより“あいつら”って……)

 そこに自分が含まれていることは分かる。あとは、もしや仲間たちのことだろうか。

 琴音は廊下を駆けながら、顳顬に触れる。

「桐生! 小春たちにも伝えて。私たちを狙ってる奴がいる。如月たちの他に、祈祷師とかいう────」

 突如として、琴音の目の前に祈祷師が現れた。

 瞬間移動……驚く間も戸惑う暇もなく、彼は手を銃の形に構える。

「ばーん!」

 祈祷師の指先から放たれた光弾(こうだん)が、琴音の額を貫いた。

『琴音……? おい、琴音!』
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