ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
死にたくない。死にたくない。
自分の状態を把握した途端、切に願わずにはいられなくなった。
だが、そう思う反面、この苦痛から早く解放して欲しい、とも考えてしまう。
ばくばくと激しく脈打っていた鼓動がだんだん速度を落としていく。
その心拍により、波動のような激痛と鈍痛が全身を駆け巡る────。
心音が遅くなるほど、その苦痛は増幅していった。まるで拷問だ。
「う、ぅう……っ!」
耐え難い痛みと苦しみに叫び出したいほどなのに、そんな気力も体力も残っていなかった。
早く意識を失ってしまいたい。そうすれば、きっと少しは楽になる。
だが、そうすればもう二度と目覚められないだろう……。
「ふふふ、いっそのこと殺して欲しいでしょー。でも、ボクはそんな優しいことしないよ。勝手に命尽きるまで見守ってるね」
祈祷師は倒れた小春の前に屈み、自身の膝に頬杖をついた。
小春の呼吸が鈍っていく。心音の間隔が広くなっていく。
目を閉じれば、蓮や仲間たちの姿が蘇った。自分の言葉が過ぎった。
『────私が助ける。私が守る。皆のこと』
つ、と涙が伝い落ち、ぽたぽたと地面の血溜まりに溶ける。
何て情けないのだろう。何て無責任なのだろう。
誰のことも、自分自身でさえ、守れなかった。
「ごめ……ね……」
やがて小春は力尽き、その心臓は拍動を止めた。
身体の切断面からあふれる血は未だに止まらない。血溜まりは広く深くなる一方だ。
小春の死を確かめた祈祷師は、ふわりと満足気に口角を持ち上げた。
「あーあ、死んじゃった。案外あっけなかったな」
そう呟きながら、その亡骸に手を触れる。
辺りに眩い閃光がほとばしった。
*
蓮は突然の景色の変化に驚いた。放課後の学校だ。
見慣れた校舎内だが、人影はなかった。
「くそ……! こんなとこにいる場合じゃねぇんだよ」
ひたすらに小春の身が案じられる。忽然と姿を消した彼女は無事だろうか。
今すぐにでも捜しに行かなければ────。
廊下を駆け出した蓮だったが、すぐに足を止める羽目になった。
不意に廊下の先に一人の女が現れたからだ。
彼女は片方の唇の端を持ち上げ、高圧的な笑みを浮かべた。
「あんたがあたしのお相手ってわけね」
スリットの入ったタイトなドレスに身を包み、羽根のついた扇子を手にしている。
女は蓮の反応を待たずして手を翳した。掌から飛び出した水が、まるで意志を持った大蛇のように蓮を追尾する。
蓮は「チッ」と舌打ちし、反対方向へ駆け出して逃げた。
廊下を曲がり、適当な教室へ飛び込む。扉を閉めると、バシャッと水がぶつかって散った。
「何なんだよ……」
蓮が火炎魔法の持ち主であるということが、既に露呈しているのだろうか。
水魔法を繰り出されたのでは、蓮はほとんど無力も同然だ。
コツ、コツ、と靴音が近づいてくる。
臨戦態勢を取りながら、得体の知れない女に声をかけた。
「お前も祈祷師の一種なのかよ」
「馬鹿だね、祈祷師ってのは肩書きじゃないよ。あたしは通称、呪術師」
そういえば、踏切で祈祷師も“呪術師”がどう……などと言っていたことを思い出す。
「お前らは何者なんだ?」