ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 小春の掲げた理想と信念を思い出しているのだろう。彼女は“魔術師同士で殺し合うこと”を禁忌とし、止めようとしていた。

 しかし、祈祷師が対象ならどうなのだろう。魔術師でない彼らのことは、殺すのだろうか。

「……正直、いいか?」

 大雅は顔を上げ、全員を見回した。

「こうなった以上、悠長なことは言ってらんねぇ。まず自分を守ることを第一に考えねぇと、あっさり殺られる」

 蓮は複雑な表情を浮かべた。

 出来る限り、小春の考えを守り、その意志を貫き通したい。だが、大雅の言うことにも一理ある。

「小春の考えを否定するつもりはねぇけどな」

 大雅はそう付け足す。とはいえ、要するに、自衛の手段として“殺し”を解禁しよう、という主張だ。

 祈祷師は無論、相手が魔術師であっても。

「せやな。殺るか殺られるかやろ? しゃあないって」

 真っ先に賛同したのはアリスだった。もともと小春の信念を不承不承で受け入れていた彼女だ。それはごく自然な反応だった。

「なぁ?」

「えっ? あ……、うん。そう、かも」

 同意を求められた瑚太郎は咄嗟に頷く。しかし、それが本心だった。

 仕方ない、と言えば、仕方ないのだ。殺さなければ死んでしまうのだから。

「そういうことなら、私も……。とりあえず賛成」

 紗夜が言う。小春に感銘を受けたうららも、彼女と同様に殺しを敬遠するようになったが、今はこの場にいない。

 少なくともうららを取り返すまでは、甘いことは言っていられない。

「…………」

 奏汰は黙って蓮を窺った。仲間内でどんな意見が多数派になろうと、こればかりは蓮に合わせるつもりだった。

「……そうだな」

 蓮は俯いていた顔を擡げる。鋭い目つきで遠くを見据えた。

「俺も、小春に何かあったら……相手を殺してやる」

 半分は自棄になっていた。残りの半分は、どうにか割り切った結果だった。

 小春の生存を信じるのであれば、彼女を見つけ、守らなければならない。その役目は自分にしか負えない。

 だから、死ねない。何がなんでも────。

 そのためには、人殺しすら正当化しなければならなかった。アリスの言うように、仕方がない、と割り切るしかなかった。

 そんな判断をしたことを小春が知ったら、恐らく怒るのだろう。

 それならそれで構わない。彼女が生きてさえいれば……。

 奏汰はただ頷いた。蓮の選択を、褒める気も責める気も起きなかった。どちらに転んでも納得していただろう。

「なぁ、小春が冬真のもとにいるってことはねぇか?」

 蓮は大雅に尋ねた。

 自然と、すっかりその可能性を失念していた。

 冬真と祈祷師が手を組み、小春を瞬間移動させて攫ったとして、それでもすぐさま殺さずにいるとしたら。

 もし、そうであれば────連絡がつかない理由にも、自分たちに合流しない理由にも、合点がいく。

 うららのように絶対服従させられているということだ。
< 168 / 338 >

この作品をシェア

pagetop