ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
小春の掲げた理想と信念を思い出しているのだろう。彼女は“魔術師同士で殺し合うこと”を禁忌とし、止めようとしていた。
しかし、祈祷師が対象ならどうなのだろう。魔術師でない彼らのことは、殺すのだろうか。
「……正直、いいか?」
大雅は顔を上げ、全員を見回した。
「こうなった以上、悠長なことは言ってらんねぇ。まず自分を守ることを第一に考えねぇと、あっさり殺られる」
蓮は複雑な表情を浮かべた。
出来る限り、小春の考えを守り、その意志を貫き通したい。だが、大雅の言うことにも一理ある。
「小春の考えを否定するつもりはねぇけどな」
大雅はそう付け足す。とはいえ、要するに、自衛の手段として“殺し”を解禁しよう、という主張だ。
祈祷師は無論、相手が魔術師であっても。
「せやな。殺るか殺られるかやろ? しゃあないって」
真っ先に賛同したのはアリスだった。もともと小春の信念を不承不承で受け入れていた彼女だ。それはごく自然な反応だった。
「なぁ?」
「えっ? あ……、うん。そう、かも」
同意を求められた瑚太郎は咄嗟に頷く。しかし、それが本心だった。
仕方ない、と言えば、仕方ないのだ。殺さなければ死んでしまうのだから。
「そういうことなら、私も……。とりあえず賛成」
紗夜が言う。小春に感銘を受けたうららも、彼女と同様に殺しを敬遠するようになったが、今はこの場にいない。
少なくともうららを取り返すまでは、甘いことは言っていられない。
「…………」
奏汰は黙って蓮を窺った。仲間内でどんな意見が多数派になろうと、こればかりは蓮に合わせるつもりだった。
「……そうだな」
蓮は俯いていた顔を擡げる。鋭い目つきで遠くを見据えた。
「俺も、小春に何かあったら……相手を殺してやる」
半分は自棄になっていた。残りの半分は、どうにか割り切った結果だった。
小春の生存を信じるのであれば、彼女を見つけ、守らなければならない。その役目は自分にしか負えない。
だから、死ねない。何がなんでも────。
そのためには、人殺しすら正当化しなければならなかった。アリスの言うように、仕方がない、と割り切るしかなかった。
そんな判断をしたことを小春が知ったら、恐らく怒るのだろう。
それならそれで構わない。彼女が生きてさえいれば……。
奏汰はただ頷いた。蓮の選択を、褒める気も責める気も起きなかった。どちらに転んでも納得していただろう。
「なぁ、小春が冬真のもとにいるってことはねぇか?」
蓮は大雅に尋ねた。
自然と、すっかりその可能性を失念していた。
冬真と祈祷師が手を組み、小春を瞬間移動させて攫ったとして、それでもすぐさま殺さずにいるとしたら。
もし、そうであれば────連絡がつかない理由にも、自分たちに合流しない理由にも、合点がいく。
うららのように絶対服従させられているということだ。