ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
人質の交換を持ち掛けたわけだ。とはいえ、大雅を取り返したら、当然記憶操作をするつもりだが。
『は……?』
(君ってさ、本当に反抗的だよね。さすがの僕もそろそろ憎らしくなって来たよ)
何かを含んだような物言いに、大雅は眉を顰める。
そんなことを今さら咎める気だろうか。違うはずだ。
『記憶を奪ってもすぐに取り戻してるのか、忘れた上での反抗なのか……、まぁいいや。大雅、僕のもとへ戻って来い』
何を言われようと、大雅の意思が変わることは決してない。もともと仲間ですらないのだ。
(……嫌だ、っつったら?)
『ここにいる百合園うららを殺す』
拒絶されることなど承知の上らしく、冬真の返答は早かった。
(お前……)
『大人しく従った方が身のためだよ。もう仲間を失いたくはないでしょ?』
挑発するように冬真は続ける。
『君の仲間たちは優しくて正しくて熱くて、深い絆で繋がってる。ははは、寒くて笑っちゃうけど』
大雅は険しい顔で黙り込んだ。言葉の内容そのものより、彼の意図に苛立つ。吐き捨てるように舌打ちした。
自分を取るか、仲間を取るか、その選択を迫られている。
拒んだり無視したりすれば、うららは殺されるだろう。
冬真は愉しげに口角を持ち上げた。優しい大雅には、選択肢は実質一つしかないはずだ。
『これが最後の機会だ、大雅。百合園うららを返して欲しければ、君が僕のもとへ戻れ。すべて忘れて、僕に尽くせ』
冬真の言葉に、大雅は唇を噛み締めた。
『もし、また裏切ったら……そのときはもう容赦しない。君を殺して、その魔法を僕が貰う』
愉悦に浸る彼の声が頭の内側を突き刺してくる。
『期限は明日。それまでに決めるんだ────自分か仲間か』
テレパシーはそれで途切れた。交渉の余地もない、一方的な取り引き内容だ。提案とは名ばかりで、重い選択を押し付けられたに過ぎない。
「…………」
勿論、冬真のもとへなど戻りたくはないが、かと言ってうららを見殺しには出来ない。
だが、例えばここにいる全員で乗り込んで抵抗するのはどうなのだろう。勝てるだろうか?
冬真と律だけならまだしも、彼らのバックには祈祷師がついているのかもしれないのだ。どう楽観視しても見込みがない。
ならば、応じる他に道はないのではないか。
何度屈服することになっても、そのたび記憶と自我を取り戻せば────いや、都合よくそんなことが出来るか?
以前、それで琴音を窮地に立たせた。正気を取り戻しても、自分では何も出来ずに。
「……が、大雅」
名を呼ばれ、はっと顔を上げた。案ずるような表情の蓮と目が合う。
悶々と思考に沈んでしまい、まったく気付かなかった。
「どうかしたのか?」
「……何でもねぇよ」