ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*
「あれれれ? またしても雲行き怪しいんじゃないの?」
祈祷師は顎に手を当て、小首を傾げる。そう言いながらも、口元には興がるような笑みが浮かんでいる。
しかし、今し方の“状況”を眺めたところ、運営サイドの面々は苦い表情を禁じ得なかった。
「ミナセが消えたら今度はムカイかぁ……。面倒な連中ね」
「そういう“馬鹿なこと”考える奴らは他にもいるよ。ま、何人現れようが関係ないがね。全員殺せばいいんだ」
呪術師にそう言を返された霊媒師は、不服そうに髪の先をいじる。
「運営が干渉し過ぎると、ゲーム性が損なわれるんだけどなぁ。……まぁ、仕方ないか。健全なプレイヤーの快適なゲーム進行を妨げたら、元も子もないもんね」
「……お前はゲーム運営にのめり込み過ぎだ」
さすがの陰陽師も呆れたように口を開いた。
想定以上に霊媒師はゲームが好きなようだ。
「ま、運営の意に沿わない連中はぶっ殺ってことで────いいよね?」
確かめるように尋ねた祈祷師。陰陽師は首肯する。
「……それと、あたしらを嗅ぎ回ってる奴らがいるね。そいつらにも釘を刺すか」
腕を組んだ呪術師が普段より声を低めて言うと、霊媒師はややオーバーなリアクションをした。
「こっわー……。あくまで脅かす程度にしてよ?」
「けど、その二人もムカイの一味だ。攻撃を仕掛けて確かめてみるよ。駄目そうなら殺す」
呪術師はしなやかな指で首をなぞった。気迫そのままに、その場から消える。
何かを考えるように口を噤んでいた祈祷師は、ふと閃いて笑みを湛えた。
機嫌を良くしながら、彼も姿を晦ました。
*
紗夜とうららは百合園家に集っていた。
家の伝手も利用しつつ、アプリの解析を試みる。しかし、尽くエラー表示が続き、何一つとして分からなかった。
海外のサーバーを複数経由しているから、というような現実的な理由ではなく、何故か侵入出来ないがその何故かがまったくの不明、という奇妙な状態だ。
“魔法”などというものを提供している連中なのだから、その理由も魔法であると考えればそれまでだが。
「変死体が上がっても、警察が捜査もしないのは、警察内部に協力者がいるからだと思ってた……。でも、そうじゃなくて、それも魔法によるのかもしれない」
「そんな。何もかも魔法の仕業ってことですの? それなら何でもありじゃない」
「うん……。つまり、何も掴めやしないってこと。情報も、運営側の尻尾も」
「…………」
それでは、倒すも何もない。相手は人間ではないのだ。
どう太刀打ちすべきだろう。そもそも会うことすら叶わないのではないだろうか。
「一旦、合流する……?」
行き詰まりそうな気配を感じた紗夜が提案すると、うららは承諾した。二人は庭へ出る。
「……!」
石造りの白い噴水や手入れの行き届いた花壇が広がる庭の中央に、異質な人影が佇んでいた。
反射的に足が止まる。警戒心が急速に掻き立てられる。
「おや、ごきげんよう」
妖艶な雰囲気を纏う女が、うららたちを見て微笑んだ。決して好意的な色ではない笑みだ。
「ど、何処から現れたの……? 瞬間移動?」
紗夜は狼狽した。うららの自宅はセキュリティも万全だ。人知れず侵入することなどまず不可能なはずなのに。
「魔術師ですの? ……いいえ、祈祷師?」
「心外だねぇ。あたしがあの馬鹿面と同一人物に見えるのかい? 狐なのに馬鹿とはややこしいか、ふふ」
女は扇子で口元を覆った。
紗夜とうららは顔を見合わせる。つまり“祈祷師”は、魔術師とは異なり、肩書きではないのだろう。
ならば、彼女はいったい?
「あたしは呪術師だ。無論、通称だけどね……。他の者も皆そう。ただの呼び名に過ぎない。察してると思うが、あたしたちは人間じゃないからね」
「何者なの……?」
「“運営側”だ」
女の目が興がるように細められる。
二人ははっとした。ずっと追っていた、影も形も捉えられなかった霧隠れ状態の運営。
やっとその霧が晴れた。突如として訪れたこの邂逅の機会は、果たして希望か絶望か────。
「ついでに教えてやろう。運営側はぜんぶで四名。リーダーの陰陽師、あんたたちの知ってる祈祷師、カイハルトを殺した霊媒師、そしてあたし、呪術師。……どうだい、パズルのピースが埋まって来ただろ」
「あれれれ? またしても雲行き怪しいんじゃないの?」
祈祷師は顎に手を当て、小首を傾げる。そう言いながらも、口元には興がるような笑みが浮かんでいる。
しかし、今し方の“状況”を眺めたところ、運営サイドの面々は苦い表情を禁じ得なかった。
「ミナセが消えたら今度はムカイかぁ……。面倒な連中ね」
「そういう“馬鹿なこと”考える奴らは他にもいるよ。ま、何人現れようが関係ないがね。全員殺せばいいんだ」
呪術師にそう言を返された霊媒師は、不服そうに髪の先をいじる。
「運営が干渉し過ぎると、ゲーム性が損なわれるんだけどなぁ。……まぁ、仕方ないか。健全なプレイヤーの快適なゲーム進行を妨げたら、元も子もないもんね」
「……お前はゲーム運営にのめり込み過ぎだ」
さすがの陰陽師も呆れたように口を開いた。
想定以上に霊媒師はゲームが好きなようだ。
「ま、運営の意に沿わない連中はぶっ殺ってことで────いいよね?」
確かめるように尋ねた祈祷師。陰陽師は首肯する。
「……それと、あたしらを嗅ぎ回ってる奴らがいるね。そいつらにも釘を刺すか」
腕を組んだ呪術師が普段より声を低めて言うと、霊媒師はややオーバーなリアクションをした。
「こっわー……。あくまで脅かす程度にしてよ?」
「けど、その二人もムカイの一味だ。攻撃を仕掛けて確かめてみるよ。駄目そうなら殺す」
呪術師はしなやかな指で首をなぞった。気迫そのままに、その場から消える。
何かを考えるように口を噤んでいた祈祷師は、ふと閃いて笑みを湛えた。
機嫌を良くしながら、彼も姿を晦ました。
*
紗夜とうららは百合園家に集っていた。
家の伝手も利用しつつ、アプリの解析を試みる。しかし、尽くエラー表示が続き、何一つとして分からなかった。
海外のサーバーを複数経由しているから、というような現実的な理由ではなく、何故か侵入出来ないがその何故かがまったくの不明、という奇妙な状態だ。
“魔法”などというものを提供している連中なのだから、その理由も魔法であると考えればそれまでだが。
「変死体が上がっても、警察が捜査もしないのは、警察内部に協力者がいるからだと思ってた……。でも、そうじゃなくて、それも魔法によるのかもしれない」
「そんな。何もかも魔法の仕業ってことですの? それなら何でもありじゃない」
「うん……。つまり、何も掴めやしないってこと。情報も、運営側の尻尾も」
「…………」
それでは、倒すも何もない。相手は人間ではないのだ。
どう太刀打ちすべきだろう。そもそも会うことすら叶わないのではないだろうか。
「一旦、合流する……?」
行き詰まりそうな気配を感じた紗夜が提案すると、うららは承諾した。二人は庭へ出る。
「……!」
石造りの白い噴水や手入れの行き届いた花壇が広がる庭の中央に、異質な人影が佇んでいた。
反射的に足が止まる。警戒心が急速に掻き立てられる。
「おや、ごきげんよう」
妖艶な雰囲気を纏う女が、うららたちを見て微笑んだ。決して好意的な色ではない笑みだ。
「ど、何処から現れたの……? 瞬間移動?」
紗夜は狼狽した。うららの自宅はセキュリティも万全だ。人知れず侵入することなどまず不可能なはずなのに。
「魔術師ですの? ……いいえ、祈祷師?」
「心外だねぇ。あたしがあの馬鹿面と同一人物に見えるのかい? 狐なのに馬鹿とはややこしいか、ふふ」
女は扇子で口元を覆った。
紗夜とうららは顔を見合わせる。つまり“祈祷師”は、魔術師とは異なり、肩書きではないのだろう。
ならば、彼女はいったい?
「あたしは呪術師だ。無論、通称だけどね……。他の者も皆そう。ただの呼び名に過ぎない。察してると思うが、あたしたちは人間じゃないからね」
「何者なの……?」
「“運営側”だ」
女の目が興がるように細められる。
二人ははっとした。ずっと追っていた、影も形も捉えられなかった霧隠れ状態の運営。
やっとその霧が晴れた。突如として訪れたこの邂逅の機会は、果たして希望か絶望か────。
「ついでに教えてやろう。運営側はぜんぶで四名。リーダーの陰陽師、あんたたちの知ってる祈祷師、カイハルトを殺した霊媒師、そしてあたし、呪術師。……どうだい、パズルのピースが埋まって来ただろ」