ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
そう考えた矢先、目前に呪術師が現れた。
うららの磁力に引き寄せられたのではなく、呪術師が瞬間移動してきたのだ。
まずかった。まだ態勢が整っていない。
うららは慌てて距離を取ろうとするも、不意に身体が動かなくなった。硬直魔法だ。
ぎらりと青白く寒々しい光を纏う氷剣が迫る。為す術なくそれを見つめ、咄嗟に目を瞑った。
────訪れるであろう激痛を覚悟したが、聞こえてきたのは呪術師の悲鳴だった。
「……!?」
はっと見やれば、霧の中から現れた紗夜が、呪術師の腕に注射器を突き立てていた。毒が注入されていく。
呪術師の腕が震え、拳が開いた。お陰でうららにかけられた硬直が解除される。
安堵と感激の念を抱いたうららが思わず「紗夜!」と呼び掛けたとき、逆上した呪術師が動いた。
氷剣を繰り出し、紗夜の右胸に突き刺したのだ。剣は貫通した。またたく間に紗夜の右上半身が凍りついていく。
「う、うぅあ……っ」
紗夜は悶絶しながら崩れ落ち、その場に膝をついた。凍えるほど冷たいはずなのに熱いような、ちぐはぐな激痛に襲われる。
「紗夜! 大丈夫ですの!?」
駆け寄ろうとしたうららの行く手を阻むように、呪術師は氷剣を構えた。
「あんたも氷漬けになりたいかい……?」
不敵に笑った呪術師だったが、その顔色は悪い。不意にたたらを踏み吐血した。紗夜の毒が回っている。
彼女は「くそ」と毒づき、氷剣をその場に捨てた。刃の部分が割れる。
震える手を紗夜に翳すと、ぶわっと風が起こり、その左腕に無数の切り傷が浮かんだ。
紗夜はわずかに呻いたが、氷剣による傷の前では何の痛みも感じられなかった。
「何、を……」
戸惑ううららを置き去りに、呪術師は紗夜の腕からあふれる血をなぞった。手から滴るそれを、ぺろりと舐めとる。
「……いつ飲んでも、生き血ってのは美味しくないもんだね」
赤い唇をさらに赤く染め、不満そうに呟く。先ほどまでの余裕のなさは消えていた。
毒魔法の術者である紗夜の血を飲んで、解毒したというわけだ。無に帰してしまった。
深手を負い、出血量の多い紗夜はもう動けない。自分一人でどうにかするしかない。
「吸血鬼気取りですの? 馬鹿馬鹿しい……」
怒りや嫌悪を滲ませながら、うららは呪術師を睨めつけた。
こうなれば、磁力で引き寄せ一気に叩き落とす他にない。手を翳す。
そうして磁力を発動させたものの、呪術師は先んじて石の短剣を放っていた。うららがそういう攻撃に転じることなど見切っていた。
「……っ!」
鋭利な切っ先が目前に迫る。
図らずもその短剣を引き寄せてしまったうららの身体から、大量の鮮血が舞った。