ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
少々意外ではあったが、考えてみれば当然かもしれない。
律の能力は確かに強力だが、単独ではそれほど脅威と言えない。いくらでも防ぎようがある。
機動力も低いため、戦闘に持ち込まれると、単純な攻撃系の魔術師相手に勝ち目はないだろう。
だからこそ冬真が無力化している今、自分たちと対立していたくないのだ。
「佐久間くんが大丈夫でも、祈祷師がいるんじゃない……?」
奏汰が言った。うららの話し振りでは、冬真が眠った時点では、祈祷師は冬真たちとは一緒にいなかった。
しかし、その後合流したかもしれない。動けない冬真を護衛しているかもしれない。
いや、そもそも────。
「祈祷師なら睡眠魔法も使えるんじゃねぇか? あいつ何でもありなんだろ」
「じゃあ、冬真くんはもう起きてるかもしれないってこと?」
「うわ、じゃあ近づけねぇじゃん! くそ……」
蓮が喚く。最も厄介な存在を失念していた。
彼が冬真側にいる限り、やはり足止めを食らう羽目になってしまう。
「もー、トーマっちったらボクの権威利用し過ぎ。ま、別にいいケドさ」
突如としてそんな暢気な声がした。四人は振り返る。
初めて目にかかった、和装に白髪、そして半狐面をつけた長身の男。
そんな目立つ装いから、ただ者でないことは明白だ。
彼が祈祷師だ────直感的に分かる。
それぞれが思わず身構えると、祈祷師はけらけらと笑った。
「ビビり過ぎだって。……ま、仕方ないか。その警戒心は正しい。何せボクはキミらを殺しに来たんだから」
祈祷師が手を振るとヒュッと風が起こった。それが過ぎ去ると、いつの間にやら四人の頬や身体に切り傷が浮かんでいる。
肌がひりついた。じわ、と血が滲む。
「痛……。かまいたちみたいな」
腕に負った傷を眺め、奏汰は呟いた。
“風魔法”とでも言ったところだろう。
「面倒くさいから一気に片付けていい?」
祈祷師はそう言うなり、巨大な水柱を生み出した。ゴォゴォと渦巻く轟音に怯んでしまう。
迫ってきた水柱が津波のように形を変え、四人を飲み込もうとする────寸前、奏汰が凍らせて阻止した。
重みにより落下する前に、蓮が巨大な氷塊を溶かす。祈祷師は思わず口笛を吹いた。
「凄い連携力。やるねー」
賞賛なのか挑発なのか分からない。
祈祷師の言葉を無視し、蓮は彼に問うた。
「お前、何なんだよ。何で冬真に手貸すんだ? 目的は?」
「はいはい、うるさい……。ん? 何かこんなこと前にもなかった? や、気のせいか」
妙な感覚を覚えたのは蓮も同じだった。
こんなふうにあしらわれたことが前にもあったような……何の既視感だろう?