ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*
月ノ池高校裏手の山中にある小さな廃屋からは、ランタンの淡い光が漏れていた。
先に帰り着いていた日菜は、小さな物音に振り返る。
「あ、おかえりなさい。八雲くんに水無瀬さん」
至は血色の悪い顔で今にも倒れそうなほどふらついていた。それを小春が支えながら廃屋内へ入ってくる。
「至くんが、ちょっと許容量をオーバーしそうなの。もう既に二人……ううん、三人眠らせてるから」
小春は部屋の奥の方に目をやった。そこには昏々と眠るアリスの姿があった。
彼女は悪夢でも見ているのか、うなされて汗をかいている。
「やっぱ……三人を超えるときついなぁ」
至は苦笑する。ふとした拍子に瞼を閉じてしまいそうになるのだ。
深く息をつき、朽ちた木の柱に背を預ける。
「あの子のこと起こす? 何だか苦しそうだし、今すぐに実害があるとは思えないし」
小春はアリスを一瞥して提案した。しかし、至は首を左右に振る。
「今起こせば牙を剥くかもしれない。俺が限界まで耐えるよ」
アリスのことはほとんど不意をつくような形で眠らせた。今起こしたら、逆上する可能性がある。
「それより、それどうしたの? 何があった?」
至は唇の端を指しながら日菜に問うた。つられて小春も彼女を窺う。
日菜の口端には赤黒い血がかすかについていた。
「あ……偶然、負傷した魔術師二人に出会ったんです。一人は簡単に治せる範囲だったんですが、もう一人は意識もないほどの重傷で、右上半身が凍ってて。その二人を治療したら、さすがに負荷が大き過ぎて……血を吐いちゃいました」
えへへ、と眉を下げつつ笑って拭う日菜。
回復魔法は大きな反動を伴う能力の一つだ。しかし、慣れているからか、日菜は何でもないことのように言う。
「大丈夫、なの?」
「ええ、平気です。それより、お二人に伝えたいことがあって」
日菜が救った二人の魔術師────一人は雨音紗夜、もう一人は百合園うららと名乗った。
「八雲くんと水無瀬さんに用があるみたいでしたよ。拠点も教えてくれました。……あ、水無瀬さんのお名前は出してませんから安心してください」
それでも、小春にも用があるのか……。至は思案顔になる。
「小春ちゃん、二人のことは知ってる?」
「……知らない」
小春は不安気な表情で小さく首を横に振った。
「そっか、じゃ俺一人で行ってくるよ。拠点は何処だって?」
「待って。そんな状態で一人動くのは危険だよ」
小春の制止に至は苦笑した。それは至自身も自覚していた。
「んん……困ったな。確かにこのままじゃ、いつ眠ってしまうか」
身を起こした至は窓際へ寄り、落ちていたガラスの破片を一つ拾い上げた。
月ノ池高校裏手の山中にある小さな廃屋からは、ランタンの淡い光が漏れていた。
先に帰り着いていた日菜は、小さな物音に振り返る。
「あ、おかえりなさい。八雲くんに水無瀬さん」
至は血色の悪い顔で今にも倒れそうなほどふらついていた。それを小春が支えながら廃屋内へ入ってくる。
「至くんが、ちょっと許容量をオーバーしそうなの。もう既に二人……ううん、三人眠らせてるから」
小春は部屋の奥の方に目をやった。そこには昏々と眠るアリスの姿があった。
彼女は悪夢でも見ているのか、うなされて汗をかいている。
「やっぱ……三人を超えるときついなぁ」
至は苦笑する。ふとした拍子に瞼を閉じてしまいそうになるのだ。
深く息をつき、朽ちた木の柱に背を預ける。
「あの子のこと起こす? 何だか苦しそうだし、今すぐに実害があるとは思えないし」
小春はアリスを一瞥して提案した。しかし、至は首を左右に振る。
「今起こせば牙を剥くかもしれない。俺が限界まで耐えるよ」
アリスのことはほとんど不意をつくような形で眠らせた。今起こしたら、逆上する可能性がある。
「それより、それどうしたの? 何があった?」
至は唇の端を指しながら日菜に問うた。つられて小春も彼女を窺う。
日菜の口端には赤黒い血がかすかについていた。
「あ……偶然、負傷した魔術師二人に出会ったんです。一人は簡単に治せる範囲だったんですが、もう一人は意識もないほどの重傷で、右上半身が凍ってて。その二人を治療したら、さすがに負荷が大き過ぎて……血を吐いちゃいました」
えへへ、と眉を下げつつ笑って拭う日菜。
回復魔法は大きな反動を伴う能力の一つだ。しかし、慣れているからか、日菜は何でもないことのように言う。
「大丈夫、なの?」
「ええ、平気です。それより、お二人に伝えたいことがあって」
日菜が救った二人の魔術師────一人は雨音紗夜、もう一人は百合園うららと名乗った。
「八雲くんと水無瀬さんに用があるみたいでしたよ。拠点も教えてくれました。……あ、水無瀬さんのお名前は出してませんから安心してください」
それでも、小春にも用があるのか……。至は思案顔になる。
「小春ちゃん、二人のことは知ってる?」
「……知らない」
小春は不安気な表情で小さく首を横に振った。
「そっか、じゃ俺一人で行ってくるよ。拠点は何処だって?」
「待って。そんな状態で一人動くのは危険だよ」
小春の制止に至は苦笑した。それは至自身も自覚していた。
「んん……困ったな。確かにこのままじゃ、いつ眠ってしまうか」
身を起こした至は窓際へ寄り、落ちていたガラスの破片を一つ拾い上げた。