ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
小春はほとんど反射のように小さく頷く。
あれこれ聞こうと思ったアリスだったが、そんな暇もなかった。
廃屋の外へ出ると何やら結界のようなものが張られた。小春を中心に円形が生まれる。
「光学迷彩。この円の内側に入れば、小春ちゃんを視認出来ると同時に外からは見えなくなる」
「……へぇ、これが透明化の秘密か」
光魔法の応用だったわけだ。
円の内側へ入ろうとしたアリスを、小春が制した。
「美兎ちゃん、小さくなれる?」
「へ?」
「私が同時に飛ばせるのは一人までなの。至くんを飛ばすから、美兎ちゃんは小さくなって私に乗って」
小春の言葉に「なるほどな」とアリスは頷き、最小サイズに矮小化した。屈んでくれた小春の掌から腕を伝って肩へ乗る。
「なぁ、美兎やなくてアリスでええよ」
アリスは人懐こく微笑んだ。
「あんたの身に起きたことは、何や急用とやらが終わったらじっくり聞くわ」
「それは分かる範囲で俺から説明するよ」
あるいは、言える範囲で。
至はアリスを信用していないだろうが、一旦は行動をともにしておいた方が都合がいい。
「急ごう。……“彼ら”が危ない」
三人は空中へ舞い上がる。至の先導で廃トンネルを目指して飛行した。
*
天界でも、至に眠らされていた祈祷師が目を覚ました。
「まったく……。ようやくお目覚めだよ、眠り姫が」
「こいつが姫とかキモチワル」
呪術師と霊媒師に容赦なく皮肉と毒を吐かれた祈祷師だったが、特に気に留めることなく苦笑する。
「あちゃー、睡眠魔法か」
自分の身に起きたことを理解した祈祷師は続けた。
「んー、厄介だね。ボクらに対処法ないし。こうして術者がねんねしてくれるのを待つしか」
「……口付け、という手段もあるけど?」
呪術師は祈祷師の顎をすくい、艶やかに微笑んだ。
祈祷師はけらけらと笑う。
「ボクは大歓迎だけど、術者がしてくれるワケないじゃーん」
霊媒師は息をつき、腕を組んだ。
「で? もう再起したってことで、リベンジ行けんだよね」
「モチロン」
意気揚々と答えた祈祷師だったが、意外なことに陰陽師が「待て」と制した。
「標的が睡眠魔法使いの八雲至と近い。今は束でかかっても同じことの繰り返しだ」
こちらが眠らされ、睡魔に耐えられなくなった術者が眠るも、こちらが目覚めると再び眠らされ……。
といった一連の流れが繰り返されることが容易に想像出来る。
「じゃ、どうすんの」
「間が悪いってこと。それに、ちょっと面白い展開になってきたんじゃないか?」
霊媒師の投げやりな問いに呪術師は答えた。興がるように笑う。
「あぁー……確かに荒れそう。ここで運営側が干渉するのはナンセンスかもね。とりあえずオブザーバーに徹した方が楽しめそう」
呪術師の言わんとすることに気付いた霊媒師も、くるりと傘を回して口端を持ち上げた。
カラン、と祈祷師の下駄が鳴る。
「霊ちゃん。申し訳ないんだけどさぁ、一回だけ介入して来ていい?」
「え? どういうつもりよ。白けさせたら許さないよ?」
「その点はダイジョーブ! ゲーム性は損なわせないよ。それでいて、違反者を片付けられるかもしれない────」