ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*



 冬真は自室のベッドの上で目を覚ました。

 スマホで日付を確認すると、眠らされてから五日も経過していた。

 メッセージアプリを立ち上げ、律に送信する。

【今、目が覚めた。僕を運んだのは君か?】

【ああ。どうやって起きたんだ?】

 程なくして律から返信が来る。彼は元よりそういったリアクションが早い方だ。

【分からない】

 休日にアラームをかけずに眠り、昼過ぎ頃に目覚めたときのような、ふわふわとした感覚があった。

 眠らされる直前まで傀儡にしていた陽斗の遺体は、警察に通報して回収されたようだ。

【八雲至はどうなった? 大雅は?】

【至は透明化して消えた】

 律はそう送ると、続いて指先で“大雅は”と紡ぐ。大雅は────。

『手、組まねぇか?』

 少し考えてから、キーボードをタップする。

【大雅も眠らされた】

 初めて冬真に嘘をついた。

 少なくとも今は、大雅が敵だとは思えない。

「…………」

 冬真はメッセージのやり取りを終えると、顳顬に指を添える。

(君も目が覚めたか?)



*



 不意に繋がれた冬真のテレパシーに、大雅は驚いて息をのんだ。

 眠っていたはずなのに、とうとう起きてしまったというのか。

 至の言葉を思い出す────“あいつ”とは、冬真のことだったのだろうか。

(にしても……“君()”って何だ?)

 冬真は大雅も眠っていたと思っているのだろうか。律がそう嘘をついた?

 ぴんと来た大雅は、このまま眠っているフリをしていようかとも考えた。だが、すぐに思い直す。

 今や律はどっちつかずの立場だ。

 大雅のために嘘までついてくれた。協力すれば、冬真の支配を掻い潜れるかもしれない。

 そこまでは行かずとも、記憶操作は“フリ”で留めてくれるかもしれない。

 このまま冬真を無視していても、バレるのは時間の問題だ。結局、膠着状態が長引くだけだ。

 運営側もいつ襲ってくるか分からないのに、冬真の脅威に怯えている場合ではない。

 ────そのためには、至とも協力し、隙を見てもう一度眠らせるしかない。

 その隙を生み出す役目は、自分が負うしかない。

「ああ、起きた」

『よかった。……八雲至には為て遣られたね。でも、だからってすぐに復讐に走るほど僕は馬鹿じゃない。このままじゃどうせ敵わないからね。当初の目的を果たそうか』

 予想外の出方だった。

 冬真が思いのほか冷静なことに驚く。

 大雅に対して露骨な敵意を向けているわけでもない────律が記憶操作を行ったと思っているか、あるいは“大雅も至に眠らされた”という嘘により大雅と至が繋がっているという線が消えたためだろうか。

『二、三年の魔術師を洗う。その後、他校の魔術師も。八雲を倒すのが現実的じゃない今は、力を得ないと────硬直魔法を手に入れて』

「でも、冬真……。お前、どうやって魔法で殺す気だよ? 傀儡じゃ相手を死に追いやるとしてもせいぜい自殺だろ? 自殺じゃ魔法は奪えねーはず」

『それに関しては考えがある』
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