ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
教室内がざわめきに包まれた。
立て続けにクラスメートが二人も死に、二人も失踪したのだ。客観的に見ても普通ではない。
改めて言葉にされると、蓮もひどく不安になった。
(小春……)
唯一の救いは、彼女が生きていると知れたことだった。無論、至を信じればの話だが。
「隣のC組にも一人連絡取れない子がいるって……」
「呪われてんじゃね?」
クラスメートたちの言葉に、蓮は神妙な顔で黙り込む。
彼ら彼女らの恐怖と好奇の囁き声を制するように、担任は再び口を開いた。決して助長させたいわけではない。
「先生は本当に心配してる。目撃情報とか何か知ってることがあれば遠慮なく────」
不意に言葉が途切れた。
クラスメートたちも同様で、瞬間的に沈黙が訪れる。
「……?」
蓮は眉を顰め顔を上げた。
(何だ?)
「あぁ、えっと……」
我を取り戻したらしい担任が改めて出席簿を確認した。
「水無瀬と胡桃沢が欠席だな。まだ友人宅でお泊まり会中かー? 皆も遊ぶのはほどほどにな。それじゃ、ホームルーム終わり」
冗談めかして笑う担任と、それにつられるクラスメートたち。先ほどまでの異様な空気は嘘のようだった。
自分だけが異世界に放り込まれたような気分になる。先ほどまで訝しんでいたのに、この変わりようは何なのだろう。
この方が余程、異様だった。
(気味悪ぃ……)
これも運営側の魔法のせいなのだろうか。洗脳に近いものを感じるが。
ふと、蓮は思い至る。
(あー、分かった。そういうことか)
恐らく警察でも同じことが起きているのだ。
だから変死体も話題にならず、魔術師による殺人も罪に問われない。すぐに未解決事件として処理される。
尤も、魔法による殺人なんて誰も信じないだろうに、ここまでするのはスムーズなゲーム進行のためだろうか。
(何がバトルロワイヤルだよ。ふざけやがって)
────奇妙な居心地の悪さを感じながら昼休みを迎える。
久々にサッカー部の友だちと昼を食べたが、何だか偽物と接しているようで変な感覚が拭えなかった。
自販機から教室へ戻る途中、廊下にぽつんと佇む女子生徒と目が合った。
確か、隣のクラスで莉子や雄星にいじめられていると思しき人物。以前に小春が声を掛けていたことを思い出す。
(……五条雪乃、だっけ)
長い前髪の隙間から覗く目は相も変わらず陰鬱な印象だが、蓮を捉える眼差しは強かった。
何だか呼ばれているような気がして、蓮は彼女に歩み寄る。
「あー、その……小春なら今日はいねぇぞ。今日ってか、ここんとこずっとだけど」
「……お前は何してる」
思わぬ口調にたじろいだ。その強気な視線といい、堂々たる物言いといい、本当にいじめられっ子だろうか。
あのとき床に這いつくばっていた雪乃と同一人物なのだろうか。