ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
日菜の能力は昨日紗夜たちが言っていた通り、回復魔法だ。
対象の傷に手を翳すことで発動するが、魔法ガチャの代償で失った身体部位や身体機能を回復させることは不可能なようだ。
また、病気を治すことも不可能であり、死者蘇生も不可能である。
弱点は大きな反動を伴うという点だ。
「あの、あなたは……」
「俺は桐生大雅。お前が昨日助けてくれた紗夜やうららの仲間だ」
自身のテレパシーについても軽く説明しておく。
日菜の警戒が何処か解けたようだ。
「そうなんですか。その後、お二人は?」
「大丈夫だ、ありがとな」
「いえ、よかったです。ところで、何か他にお話でも?」
日菜は首を傾げる。紗夜たちの一味であれば、至や小春を捜しているのは彼も同じなのではないだろうか。
敵意はなさそうだ。困っているのなら、出来る限り手伝いたい。
「ああ、そうだな……」
何から話すか、と逡巡した。
……まずは至の立ち位置を確かめたい。
「三年七組に如月冬真って魔術師がいるんだけど、実は俺たちと対立してるんだ。今も仲間の一人が狙われてる状態」
大雅の言葉を日菜は黙って受け止めた。
「俺はもともとそいつの側でさ、今は利用されてるフリしてる。隙を見てもっかい至に眠らせて欲しいと思ってんだけど、また力貸してくんねーか?」
それに対する答え次第で、至の態度が確定する。敵か味方か、見極められる。
大雅はそう考え、日菜の返事を待った。
しかし、日菜の反応は予想とは異なっていた。
彼女は驚いたように目を見張った。その瞳が動揺したように揺らぐ。
「ちょっと待ってください……。如月くん、今起きてるんですか?」
「え? ああ、何か今朝、目覚ましたらしい」
「そんな……、どうしましょう。八雲くん、眠ってしまったんですね」
「? どういうことだ?」
彼女が何に動揺しているのか、大雅には分からなかった。至が眠ってしまった?
日菜は躊躇し、迷ったものの、答えはすぐに出た。泣きそうな表情で顔を上げる。
「八雲くんに怒られるかもしれないけど、緊急事態なので仕方ありません。……教えます、彼の魔法について」
────睡眠魔法は、相手の額に三秒間触れることで発動し、相手を強制的に眠らせることが出来る。
眠らされた者は、自力で目覚めることは不可能である。
第三者に起こされれば目覚められるが、魔法が完全に解けるわけではなく、慢性的な強い眠気に襲われ続ける。そのため、眠りに落ちることは避けられない。
だんだん入眠の間隔が縮んでいき、起きていられる時間が短くなっていく。
最終的に自力でも他力でも目覚められなくなるのだ。
術者の死亡あるいは気絶(術者自身が眠った場合も含む)、もしくは術者からのキスで完全に魔法が解除される。
この魔法は、他の魔法とは受ける反動が少し違っていた。
“術者自身も強い眠気に襲われる”というものだ。
それに負けて眠ってしまうと、眠らせた相手が目覚めてしまうわけである。
反動で眠った術者は三十分が経過すると、自然に目覚める。それまでは自力でも他力でも目覚められない。
そして、眠らせている人数が多いほど、術者への眠気の反動が大きい────。