ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「さすがに名前までは教えてくれなかったけどね。星ヶ丘の二、三年に魔術師がそれぞれ何人いるか、だけは教えてくれた。だから、君を試させて貰ったよ」

 そのために、あえて絶対服従の術をかけなかったのだと悟る。

 今回はまんまと為て遣られた。そんなに都合のいい話、あるわけがなかったのだ。

 歩み寄ってきた冬真が、容赦なく大雅の腹部を蹴った。

 不意をつかれよろめいた大雅の両腕が、律により後ろでまとめ上げられる。

「り、つ……」

 意思とは関係なく牙を剥かされた。傀儡と化しているはずなのに、律の表情が一瞬歪む。

 冬真は大雅の髪を鷲掴み、目を合わせようと擡げた。大雅は懸命に顔を背け、目を瞑って抵抗する。

 何度繰り返しても、諦めたり逃げたりする選択肢はなかった。

「……っ」

 首筋に、ひやりと冷たい金属のような感触がした。唐突な出来事に、はっと思わず瞠目する。

「君だってこのまま死にたくないよね。なら、諦めて僕を見ろ」

 その一言で充分状況を飲み込めた。首にあてがわれているのは、冬真が普段から持ち歩いているナイフに違いない。

 少しでも動けば取り返しのつかないことになる。

 どうする、などと考えている暇はなかった。……五秒という時間はあまりにも短い。

「大人しくしててよ?」

 大雅を押さえていた律は彼から手を離した。冬真は満足気に口端を持ち上げる。

「まずはその物騒なものを捨てようか。鏡の破片……まだ持ってるよね。そこに捨てるんだ」

 冬真に言われ、大雅はポケットに手を入れた。そこには確かに、あの夜割った鏡片を忍ばせていた。

 取り出したそれを手離すと、甲高い音とともに地面に落ちる。冬真は念のため、それを蹴って遠ざけた。

「さぁ、聞こうか。大雅、君たちの仲間……硬直魔法を持つ魔術師の名は何だ? 答えろ」

「……佐伯、奏汰」

 冬真は満悦し、大雅は悔しげに唇を噛み締める。意思に反し、勝手に答えてしまう。

「ああ、あいつか。確かによく考えればそうだよね、あの腕」

 意外なことに冬真は奏汰を知っていた。であれば、こんな展開にならずとも、遅かれ早かれ露呈していたかもしれない。

「ちなみにその佐伯奏汰だけど、硬直の他にも何か持ってる?」

「……氷魔法」

「そいつは今、何処にいる?」

 大雅は首を左右に振る。

「知らねぇ」

「聞きなよ、今。テレパシー繋いでるでしょ?」

 そう言われ「くそ……」とぼやく。従わざるを得ない。

 とはいえ、テレパシー自体は声に出さずとも送れる。

「奏汰、今何処だ?」

 顳顬に指を添え、そう口に出して問いながら、心の内で念じるように叫ぶ。

(頼む、答えるな……!)

『え、桐生くん?』

 奏汰の困惑したような声が返ってくる。

(俺、今操られてる。正直に答えなくていい)

 捲し立てるようにして告げた。何とも情けない話だが、冬真には結局また勝てなかった。それが事実だ。

「大雅、余計なことは言わないでよ?」

 律を介し、冬真は釘を刺す。

『操られて……? 大丈夫なの?』

 奏汰は案じてくれたが、冬真のせいでもう心の内でもテレパシーを返せない。

 良くない状況を察しつつ、奏汰は先ほどの大雅の問いに答える。

『俺は今……学校にいるよ』
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