ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
殺意に満ちたその眼差しに思わず怯んでしまう。
振り返ってみても、彼がこれほど激情を剥き出しにしたことはなかった。
いつの間にか大雅の手が、冬真の首を掴んでいた。彼は戸惑いながらも何とかそれを引き剥がす。
大雅の髪を鷲掴み、吐き捨てるように笑った。完全に虚勢だったが。
「何のつもりだ、大雅。……どうなってる!」
度重なる記憶の改竄でバグのようなものが起きたのだろうか。
そう推測したとき、はっと唐突に閃いた。
“記憶”。律を見やる。
(お前か……)
────まさしく律の自我が抵抗したのだった。
確かに大雅の記憶は消した。その点は抗えなかった。
しかし、それだけに留めなかった。逆心を純度の高い殺意へと書き換え、さらには絶対服従の術をかけられたことも忘却させた。
冬真の意図とは異なる所業を、律はしてみせたのだった。彼への抵抗として。
冬真は息をつき、舌打ちする。
どうにか冷静さを取り戻し、大雅を突き飛ばした。
喧嘩においては大雅の方が強いが、身長差があるのが幸いだった。
大雅は柱に背中を打ち付け、その場に滑り落ちて座り込む。
「はぁ……。あぁもう、どいつもこいつも鬱陶しいなぁ」
冬真はぼやき、目を細めた。
指をかけ、ネクタイを緩める。
「もういい、分かった。────必要なのは君たちの持つ魔法だからね。君たち自身はどうだっていい。……そうだ、もっと早くそうするべきだった」
彼の顔にいつもの微笑はなかった。ひたすらに非情で冷淡な色が浮かぶ。
「二人とも殺す。殺してやる」
*
廃トンネルで、奏汰は惑ったようにその場を行き来していた。腕を組み、顎に手を当てる。
今朝の時点で冬真が目覚めたという話は聞いていた。大雅が彼のもとへ向かった、という話も。
“操られている”と言っていた。恐らく危険が差し迫っていることだろう。
(けど、どうしたものかな……)
大雅は奏汰が硬直魔法を持っていることを知っている。操られたのなら、それを白状させられた可能性が高い。
助けに行きたいのは山々だが、冬真とは顔を合わせられない。
「ねぇ、俺たちここ離れた方が良いかな? ここにいることは桐生くんも知らないはずだけど、何か嫌な予感が────……早坂くん?」
瑚太郎を窺った奏汰だったが、ふと言葉を切った。
「……っ」
瑚太郎の様子がおかしいのだ。荒い呼吸を繰り返し、汗ばんでたたらを踏む。随分苦しそうだ。
「どうかしたの? 体調でも……」
言い終わらないうちに、ふっと瑚太郎の力が抜け、崩れるようにその場に倒れた。
奏汰は狼狽し、困惑しながら屈んだ。
「だ、大丈夫?」
突然どうしたのだろう。余程、調子が悪かったのだろうか。
「ん……?」
奏汰は心配して慌てたものの、瑚太郎はやがてすぐに目を覚ました。
ゆっくりと瞼が持ち上がり、その焦点が定まる。
「あ……よかった、急に倒れるからびっくりした。熱とかあるかもしんないし、しんどかったら帰っても────」
「あ? 帰れだと? 舐めてんのか」