ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 蓮は気圧されたようではあったが、納得したように数度頷く。

「なるほどな……、難しい。分かったような、分かんねぇような」

 乱雑に髪を掻き乱した。

 とにもかくにも、雪乃の魔法のお陰で、小春も蓮も“祈祷師と遭遇する”という事態を回避出来たのだ。

 電車が通り過ぎる前に雪乃が小春を連れて逃げたため、蓮の目には彼女が忽然と消えたように映った。

 祈祷師はその後踏切に現れたものの、狙いの小春がいなかったため、蓮とも接触せずに退散した。

 そういうことだろうと理解しておく。
 と、雪乃が口を開いた。

「お前も、本来は瞬間移動先で呪術師とやらに殺されてたかもな。あたしはあくまで水無瀬さんを助けたつもりだけど、ついでにお前の命も救ってたかも」

「……かもな。ありがとな、小春を救ってくれて」

 動画を見た限り、その可能性も大いにありそうなものだった。

 最早確かめようのない、仮定の話だが。

「でも、ちょっと気になったんだけどさ、何で小春を助けられたんだ? 何でピンポイントでこの瞬間に居合わせた?」

「それはな、あたしが水無瀬さんを尾行してたから。何かあったときのために」

「……ストーカーしてたってことか?」

「そう言えば聞こえは悪いけどな。でもまぁ、間違ってないから否定はしねぇ」

 顔を顰めた蓮だったが、雪乃はあっけらかんと認めた。

「何でそんなことを?  悪意はなさそうだけど」

「当然だろ。“守るため”だって。……知ってると思うけど、あたしはいじめられてる。皆が皆、関わり合いになりたくないと無視する中で、水無瀬さんだけはあたしに声かけてくれた」

 雪乃の翳った瞳が、わずかに和らいだ。

『大丈夫……?』

 孤独という暗闇のどん底に沈んでいた自分に、迷わず手を差し伸べてくれた小春。

 ほんの一瞬で、惨めさも自己嫌悪も吹き飛ばしてくれた。自分の存在を無条件で肯定してくれたようだった。

「たった一言でも……。ちゃんとあたしの目を見てくれた。それが嬉しかった。それだけで、救われた」

 蓮は、雪乃を気にかけていた小春のことを思い出した。そういう人間なのだ、彼女は。

「あ、そうだ。あたしは水無瀬さんが魔術師だってこと、結構前から知ってたよ」

「マジで?」

「いつだったか、屋上で飛んでただろ? あれ見ちゃったんだ、偶然」

 確かにそんなこともあった。あのときは誰かに見られやしないかと肝を冷やしたものだ。実際目にした雪乃に悪意がないことが幸いだった。

 それより、と蓮は雪乃に向き直る。

「何だったら、俺が言ってやろうか? 莉子と雄星、あいつら二人とも締めて────」

「いいよ、それは。あたしがやってるから」

「……え?」
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