ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「とにかくさ、水無瀬さん捜しなよ。あたしは生きてるって信じてる。お前もだろ?」

 雪乃の言葉の意味が分からず首を傾げたが、彼女は説明する気などないらしく、話題を変えた。

「おう、当たり前だ」

 蓮は至極当然といったように頷く。

 雪乃も知らない失踪の詳細だが、恐らく至なら把握しているはずだ。

 もう一度、至とコンタクトを取りたい。

 日菜を通じ、廃トンネルへ来てくれるだろうか。いや、来てくれないと困る。

「なぁ、お前は最終的にどうすんの? ……生き残りがお前と水無瀬さんだけになったりしたら」

「そうはならねぇよ。俺たちは、運営側を倒すから」

 蓮は臆することなく言ってのけた。

 それだけが、信じて進むべき道筋だ。小春の掲げた目的だ。

 雪乃は目を見張った。
 馬鹿な、と思ったが、嘲ることはしなかった。

 ────小春の言ったことなのだとしたら、希望を信じられるかもしれない。

 そう思った。希望も何も、自分は命にもこの世界にも執着などないが。

「!」

 そのとき、ポケットの中で蓮のスマホが震えた。見ると、奏汰からの着信だった。

「もしもし、奏汰?」

『……ちょっと俺、やばいかも』

 肩で息をしているのが電話越しでも分かる。

 取り繕うように笑っていたが、実際にはかなり余裕がなさそうだ。

 嫌な予感がした。

「どうした? 何があったんだよ? 冬真が来たのか?」

『そうじゃなくて……。早坂くんが、ヨルになっちゃったんだ。今殺されそうになってる』

 何ということだろう。
 何故、日も落ちていないのにヨルに変貌してしまったのだろう。

『とりあえず、アジトを破壊されないように河川敷まで逃げたけど……』

 瑚太郎のことを考えると、下手に反撃は出来ない。

「分かった。今すぐ行くから何とか持ちこたえろ」

 そう言うと、通話を終える。
 焦ったような蓮の様子を雪乃は認めた。

「悪ぃ、俺帰るわ」

 返答を待たずして駆け出した蓮だったが、扉の手前で一度足を止め振り返った。

「なぁ。図々しいのは分かってるけど、また何かあったら巻き戻して助けてくれねぇか?」

「ばーか、嫌だね」

 間髪入れずに雪乃は拒んだ。一考の余地もないらしい。

「何で!」

「お前、何か勘違いしてないか? あたしはあくまで水無瀬さんが心配で、水無瀬さんを助けたいだけ。お前なんかどうでもいいし味方でもねぇから。あたしに期待すんな」

 ばっさりと切り捨てられた。

 出来れば何とか説得したいところだが、今は時間がない。

「じゃあ、せめて────」



*



 小春たちは地面に足をつけた。

 日菜の言っていた廃トンネルに辿り着いたが、人の気配はない。

 しかし、地面や壁が少し崩れているのはもとからだろうか。戦ったような痕跡である。

「これ……」

 屈んだ至が地面に残る血痕を発見した。

 冬真か、祈祷師か、彼らが来たのかもしれない。
 いずれにしても、誰かが襲われている。
< 223 / 338 >

この作品をシェア

pagetop