ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 小春は再び宙に浮き上がった。一気に高度を上げ、辺りを見回す。

「あ……」

 河川敷の方で粉塵が上がっているのが見えた。

「行こう、二人とも」

 小春は先ほどの要領で、アリスを肩に乗せ、至を浮遊させる。

 三人は、今度は河川敷を目指した。



*



 河川敷へ着いた蓮はすぐに奏汰を見つけた。

 水弾で負傷している上に髪や服から水が滴っている。何度も瑚太郎の攻撃を受けた証拠だ。

「奏汰!」

 橋の下の壁にもたれかかるように座っていたが、意識はあった。

「……何だ、獲物が増えたな」

 瑚太郎が、否、ヨルが言う。
 初めて目にしたが、確かに瑚太郎とは別人だ。

「お前……」

 蓮はヨルを睨めつけた。彼は腕を凍らされたようだが、溶かせばすぐ元に戻るだろう。

 自分が死ぬかもしれないというのに、奏汰は瑚太郎を気遣い、最低限の反撃しかしていないのだ。

「馬鹿」

 蓮は奏汰の傍らに屈んだ。傷を押さえながら苦しげに顔を歪め、弱っている奏汰を労る。

 毒づきながらも称えたい気持ちだった。ありがたく申し訳ない。

 こんな危険な目に遭っても、自分や小春の信条を守ってくれて────。

 奏汰は微かに笑った。

「馬鹿は蓮も一緒……。あいつは天敵なのにさ、一人で来るなんて」

「お前が呼んだんだろ」

「“助けて”とは……言ってないし」

「……うるせ、俺には聞こえた」

 立ち上がった蓮は、奏汰を庇うようにしてヨルと対峙する。

「おい夜行性、俺が相手だ」

 ヨルは「あ?」と不機嫌そうに首を傾げた。構わず蓮は続ける。

「お前な、その身体も意識も瑚太郎に返せ。お前のもんじゃねぇだろうが」

「阿呆か、それはあの軟弱野郎に言え。オレはオレなんだよ。あいつの方が偽物だ」

 嘲笑を返され、蓮は黙った。そう言われると困ったものだ。

 確かに自分たちは、最初に出会ったのが瑚太郎というだけで、瑚太郎が本物(もともとの主人格)とは限らないかもしれない。

 最初に出会ったのがヨルだったら、瑚太郎の方を偽物だと思ったかもしれない。

「癪に障るな、どいつもこいつも。オレを偽扱いしやがって」

 ヨルは前髪をかき上げた。一層目つきを鋭くし、蓮に水の斬撃を飛ばす。

 蓮は避けなかった。これを避けたら、動けない奏汰に当たってしまう。

 ばっ、と背を向け、あえて攻撃を受ける。

「蓮……!」

 奏汰は瞠目した。

 まともに食らった蓮はその衝撃に背を反らした。血を吸ったブレザーが色を濃くする。

「大丈、夫……。平気だ」

 よろめきながらも態勢を立て直し、手に炎を宿した。ヨル目掛けて素早く放つ。

 それは彼の腕を掠めた。凍っていた部分が融解し、雫が落ちる。

「……おちょくってんのか?」

 ヨルは一層機嫌を損ねたようだ。

 最初から相手にすらしていないような蓮の態度が不服だった。侮られている気分だ。
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