ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
律を見やった紅が言う。確かに、冬真による傀儡は解除されていた。
しかし、あらゆることに混乱し、咄嗟に言葉が出てこない。
同じような状態の大雅も、戸惑ったように瑠奈と紅を凝視した。
「何から聞けばいいのか分かんねぇけど……。瑠奈、お前今まで何処にいたんだ? 無事だったのか? そんで、お前は誰だ? これは時間が止まってるのか?」
「あ、それはね────」
立て続けに繰り出された大雅の問いかけに瑠奈が答えようとしたとき、目眩を覚えた紅がたたらを踏んだ。
そのまま咳き込むと、血があふれる。反動だった。
「説明は後だ……。今はとにかくここから離れよう」
紅が呼びかける。
時が止まっているうちに、四人は冬真から遠ざからんと駆けていく────。
しばらく走り続けたが、その途中で蒼白な顔の紅が立ち止まり、口元を覆った。
「……っ、悪いがもう限界だ」
くずおれて座り込んだ。もう身体が持たない。停止していた時間が動き出す────。
大雅は後方を振り返った。冬真からは距離を取れている。
「充分だ。助かった」
荒い呼吸を繰り返す紅の回復を待ち、一同は廃トンネルを目指すこととした。
一方、冬真は困惑していた。大雅も律も、目の前から突然消えた。
いったいどうなっているのだろう。瞬間移動でもあるまいに。
何故か、律の傀儡も解けてしまっていた。まったくもって意味が分からない。
だが、いずれにせよ、彼らには逃げられたということだろう。
それは冬真が反撃の機会を逸したことを意味する。
「……っ」
冬真は苛立たしげにフェンスを殴った。
ガシャン、と大きな音が虚空に吸い込まれていった。
廃トンネルまでの道中、瑠奈が代表してそれぞれの人物を相互に紹介する。
「この子は藤堂紅ちゃん。“時間停止魔法”の魔術師だよ」
時間停止。……大雅は深く納得した。これほどチート級の強力さを誇るのなら、冬真が執着して目の敵にしていたのにも頷ける。
時間を止められるのなら、怖いものなど何もないだろう。どんな人も状況も、思いのままに操れるのだから。
瑠奈は紅にも大雅と律の紹介を行っていた。それが済むと、大雅は先ほどの問いを繰り返す。
「瑠奈、今まで何処で何してたんだよ? 何でテレパシーまで切って行方晦ましてたんだ?」
瑠奈の顔に、少し怯えたような色が差す。何処か不安そうに眉を下げ、唇を噛み締めていた。
そうして落ちた一瞬の沈黙は彼女自身が破った。
「……あの日、あたしは殺されかけたの。半狐面をつけた、和服姿の男に」
大雅も律も、それが誰を指すのかすぐにぴんと来た。祈祷師だ。
「彼は“制裁”って言ってた。あたしは逃げたけど追い詰められて、もう駄目だって思ったとき、紅ちゃんが現れた。彼女があたしを助けてくれたの」