ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
「あたしは忘れ物取りに来たの」
瑠奈はノートを掲げつつ答えた。
表紙に丸文字で“古典”と書かれている。
……そういえば宿題が出されたのだった。ほとんど上の空で授業を受けていた小春は、それを今思い出した。
「蓮くん、なかなか戻ってこないね」
瑠奈は鞄にノートをしまいつつ言った。
ファスナーを閉めると、鞄につけられたチャームやマスコットが揺れる。
「さっき出て行ったばっかだから……」
「小春ちゃんは蓮くんと帰りたいんだっけ?」
「え、と────」
返答に窮する。
石化の魔術師のこともあるし、ゲームのことも話したいし、蓮と帰りたいのは確かだ。
しかし首を縦に振れば、勘違いした瑠奈がまた騒ぐかもしれない。
「ねぇ、じゃあ今日はあたしと帰ろうよ」
小春の返事を待たずして瑠奈は言った。にっこりと微笑む。
「蓮くんが戻ってこないうちに……ほら、早く早く」
どうしよう、と小春は迷った。
蓮と離れて大丈夫だろうか。
もし、瑠奈といるときに魔術師が現れたらどうすれば良いのだろう。
(あ……、でも)
魔術師は、魔術師でない者を襲わない。
仮に和泉殺しの犯人に小春が魔術師であることが露呈していたとしても、瑠奈と一緒ならば安全かもしれない。
同じく魔術師だとバレている蓮といるよりも、もしかしたら。
「……分かった。帰ろっか」
小春の言葉に、瑠奈は、ぱっと顔を輝かせた。
「やったぁ! これで新作も飲めるー」
機嫌を良くしながら素早く鞄を肩に掛ける瑠奈。
蓮の戻りを危ぶんでか、新作を飲みたいがためか、たびたび「早く早く」と小春を急かした。
瑠奈とともに帰路についた小春は、蓮にその旨を伝えるべくメッセージを送っておいた。
瑠奈の行きたがる店へ行くには、一度地下鉄に乗らなければならない。
他愛もない話をしながら、二人は駅への道を歩く。
(あれ……?)
ふと、小春は訝しんだ。道が違うのだ。
駅へと続く道とは別のところで瑠奈は曲がった。
「瑠奈、こっちじゃないよ」
「近道なの」
その答えにはさらに違和感が募った。
この道は駅とは反対の方向に続いているはずだ。