ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「どうする」

 日菜から拠点を聞き出した大雅だったが、逡巡するような態度で全員に向け問うた。

「どうもこうも、行くしかねぇだろ」

 小春の安全も脅かされているかもしれないのだ。

 彼らの居場所は分からないが、ひとまずその拠点へ行ってみるしかないだろう。

 蓮の中では、答えは一つしかない。

「罠かもしんない」

 大雅が硬い声で言うと、蓮は眉を顰めた。

「何で小春が罠なんて────」

「小春じゃなくて別の誰かが、誘い込もうとしてる可能性はあるだろ」

 この中の誰か、もしくは全員を。

 蓮の反論を遮り、大雅が言った。
 
「……琴音のときはどうだった? うららが悪気なくその罠に加担してただろ。今回もそのパターンかもしんねぇよ」

 蓮も奏汰も神妙な顔つきになった。

 特に蓮はあの日、琴音と直前まで一緒にいただけに深く染みる。

「だとしても、俺は行く。ピンチなら助けに行かねぇと。罠かもってんなら、俺一人で行く」

 小春は勿論だとして、至にも恩があるため行かなければ。

 意気込む蓮は再び歩き出そうとしたが、今度は大雅が「待てって」と制止した。

「行くんだったら、全員で行かねぇと」

「ああ、そうだ。これまで、桐生にしろ、百合園にしろ、一人で背負って乗り込んだ結果どうなった。直接攻撃する手段のない如月相手でも為て遣られただろう」

 律も同調すると、さらに続ける。

「だったら、敵の姿も分からない今、持ちうる戦力は総動員して備えるべきだ。もし相手が如月なら、多勢に無勢……勝算はある」

「なるほどな」

 紅は納得したように腕を組んだ。

「一人は残ってここを守ってくれ。もしかすると、至や小春が逃げ込んでくるかも」

「一応、相手が如月だったときを想定しよう。この中で、如月と面識がある者は?」

 その場の面々を見回しながら、律が尋ねた。

 直接の面識があるのは、大雅、律、瑠奈だ。

 また、奏汰は微妙なラインだった。

 服従させられた大雅がその名を明かしたとき、冬真は知っているような反応を見せた。

 完全に同定出来ているのかは不明だが、危ない橋は渡れない。

 何より奏汰は冬真に命を狙われている。

 また、冬真が目の敵にする時間操作系の魔法を有する紅も、判明すれば危険だろう。

 つまり────相手が冬真であるなら、なるべく会わせることを避けた方がいいのは、大雅、律、瑠奈、奏汰、紅の五人だ。

 そうは言っても、何が起こるか分からない以上、少なくとも紅は保険としても連れて行きたいところだ。

「くそ、思ったよりあいつとの因縁は深そうだな」

 大雅がぼやく。……致し方ない。

 会わせたくない、会いたくない、と言っていても、五人も削ることは出来ない。

 最も避けるべきは奏汰だ。

 ここへは彼に残って貰うこととする。奏汰なら、いざというときには戦える。

「そういえば、胡桃沢さんの物体複製を使って、自分たちのダミーを作るとかは出来ないの?」

 奏汰が尋ねる。それが出来れば、色々と危険を掻い潜れそうだ。

「出来るは出来るけど、複製した人間はマネキンみたいな感じで、自律的に動かないし話せないんだよね。本人の動きを再現するだけ」

 実用的とは言えない。

 大雅や冬真でも、意思を持たないマネキン同然の複製人間までは操ることが出来なかった。

「そっか」

「だから戦闘中に、時間稼ぎに使うくらいかな」

 前に慧や琴音と戦ったときのように。

 瑠奈はそのときを思い出し、心苦しくなる。

「急ごうぜ」

 蓮が呼びかけた。のんびりしてはいられない。

 大雅の先導により、奏汰以外の面々は廃屋を目指して駆けて行った。
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