ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
言い知れぬ漠然とした不安に、小春の歩みは鈍化した。
振り向いた瑠奈は首を傾げる。
「どうかしたの?」
「……あ、ううん。何でもない」
慌てて瑠奈に追いつくと、再び歩き出した。
小春は反省した。疑心暗鬼になり過ぎだ。
何もかもを“異常”へと結び付け、不必要な疑念を抱く────すっかり我を見失っていた。
瑠奈について歩くと、住宅街を抜け土手に出た。
緩やかな風が吹き、草がなびく。川の水面はさざめいていた。
……やはり、駅へ近づいている気配は感じられない。
小春が再び口を開こうとしたとき、瑠奈が足を止めた。
「小春ちゃん」
普段よりも低い声で呼び掛けた瑠奈は、真っ直ぐに小春を見据えた。
す、とスマホを掲げられ、小春は瞠目した。
メッセージアプリが立ち上げられた画面には、小春と和泉のトーク履歴が表示されていた。
小春からのメッセージは左側────つまり、これ和泉のスマホだ。
「それ、何で……」
小春は混乱した。声が震える。
どう解釈しても、信じ難い結論に辿り着いてしまう。
和泉のスマホを持っているということは、瑠奈が和泉を……?
「あたしね、魔法少女なんだ」
瑠奈は唇の端を持ち上げ、堂々と言ってのけた。
言葉が出ない。ただただ動揺し、当惑したまま立ち尽くす。
瑠奈が何やら鞄から取り出した。
「これ、魔法のステッキなの。可愛いでしょ」
肘から先くらいの長さの細い棒だった。
先端には三日月やハートの装飾がなされ、リボンまで巻かれている。
小春は戸惑った。
瑠奈の言う“魔法少女”が魔術師という意味だとして、ステッキとは何のことなのだろう。
「見ててね。これを一振りするだけで────」
瑠奈はステッキを軽く振った。
次の瞬間、和泉のスマホが石と化した。
「……!!」
一見おもちゃにも見えたが、まさしく本物であった。
瑠奈こそが石化魔法を使う魔術師であり、和泉を殺した犯人だったのだ。
防衛本能は正しかった。疑心暗鬼も正しかった。
何故、考えなかったのだろう。
瑠奈が魔術師である、という可能性を……。
「ちょっと来てくれる? 嫌とは言わせないけど」
瑠奈は石化したスマホを放り、ステッキを小春に向けた。
鋭い刃の切っ先を向けられているも同然で、小春はおののきながら瑠奈に従った。そうせざるを得ない。