ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
冬真の顔に冷酷な微笑が湛えられる。色も温度もない、氷のような表情だ。
笑っているのに、そこに含まれているのは嘲りや蔑みといった苦々しい感情だけだった。
「守りたい? 寝言は寝て言いなよ。こいつ一人守れてないじゃん。人質になる? 当然でしょ。言われなくてもそうするよ。こいつが死んだ後、君は仲間をおびき寄せるためのエサになるんだよ!」
死体の、もとい冬真の高笑いが響き渡る。
その声が脳を直接揺らすように、がんがんと頭の中で反響する。
小春はわなないた。震えた。言葉も出ない。
どうしようもなく腹が立つ。悔しいし、悲しい。
絶望的な状況だった。
だが、どうすればいいのだろう。打開策が浮かばない。
冬真の言う通り、至一人すら守れない。
「小春ちゃん……。足、どけて」
肩を震わせる小春に、至は言った。
彼女は首を横に振る。
「……嫌だ」
「大丈夫だから。……それと、屈んで」
小春は少しの間迷った。
ナイフを差し出せば、至が死んでしまう。
それでも、ここで抵抗し続けることに意味があるとは思えなかった。
“大丈夫”という言葉を信じて足をどけると、至がナイフを掴んだのを見て屈む。
「よく聞いて……。俺はもう、助からない」
声を潜めた至の言葉に、小春は息をのんだ。
喉の奥が締め付けられ、眉間に力が込もる。
なりふり構わずあふれてこようとする涙を何とか堪えた。
至は真っ直ぐに小春の双眸を捉える。
「でも、その前に……俺が息絶えるより先に、君が俺を殺してくれ」
衝撃と動揺は、先ほどの比ではなかった。
「え……!?」
「それが唯一、今の俺たちに取れる最善策。このナイフで、その蔦を断つ。……そしたらすぐに、君が魔法で俺を殺せ」
至はいつになく真剣だった。
それも当然だ。最初で最後の機会なのだから。
彼に自殺するつもりなど毛頭なかった。
ここで死ぬのであれば、それは小春の手による以外にありえない。
「……そん、な……!」
「出来なくてもやるんだ、小春ちゃん。そして、俺の魔法を……君が引き継いでくれ」
出来る、出来ない、といった次元の話では最早ない。やるしかないのだ。
彼の睡眠魔法をやすやすと失うわけにはいかない。
無駄にするわけにはいかない。
小春は涙をこぼした。
至の意図は理解出来た。自分のするべきことも分かっている。
一瞬も躊躇ってはならない。蔦がほどけた瞬間、すぐに殺さなくてはならない。
でなければ、この唯一の希望────刹那の隙も潰えてしまう。
至はただ、意思の強い瞳で託すように見つめていた。
「……っ」
小春は泣きながら、そして震えながら頷いた。
それしかない。それしかないのだ。
この状況では、理想なんて何の役にも立たない。
躊躇すれば至の覚悟と思いを無駄にしてしまう。
至は一瞬、安堵したように表情を緩めた。それからすぐに気を引き締める。
「行くよ……?」