ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
至はナイフを握り直す。
小春が頷いたのを見て、彼女を捕らえていた蔦を一気に裂いた。はらはらと落ちる。
「な……」
思わぬ至の行動にアリスは動揺した。
何を仕出かす気なのだろう。
「やれ! 小春!」
至が叫んだ。
ほとんど反射で身体が動く。
小春は銃のように手を構え、人差し指の先を彼に向けた。
ぎゅ、と目を瞑り、光線を放つ────。
至の心臓が貫かれた。
「…………」
痛いくらいの静寂が皮膚を突き刺す。
恐る恐る目を開ける。
落とした視線の先で、至は倒れていた。既に息絶えている。
ここからが重要だった。
彼の死に動揺している暇はない。魔法を引き継がなければ。
「え……? どうして……!」
本来であれば、魔術師を殺すと、その死体から魔法が浮かび上がる。
それを掴むことで奪取出来る────はずなのに。
何故か、至の遺体には何の変化も訪れなかった。
小春は混乱する。感情の面も凪いでいないだけに、とても冷静ではいられない。
どうしてなのだろう。まだ生きているのだろうか。
小春の光線は確実に心臓を貫いたのだが。
「あーあ。危ないなぁ、もう。ヒヤッとしたよ」
冬真の声に、はっとする。
しゅる、と蔦が彼の手に戻っていくのが見えた。
それに取り付けられているのは……ナイフだろうか。
銀色の刃は血で真っ赤に染まっていた。
それを手にした冬真は小春に微笑みかける。
「ナイフが一本だけなんて、誰が言った?」
小春は冬真の手の中にあるそれと、至の傍らに転がるそれを見やった。
冬真は少なくとも二本以上持っているということだ。
何が起きたのかを悟った小春は愕然とする。
彼女の光線が届くより先に、冬真があのナイフで至の息の根を止めていたのだ────。
「うわ、あたしもヒヤヒヤしたぁ。さすが如月やな」
アリスは素直に感心した。
今回は、冬真の方が一枚上手だったわけだ。
「そんな……」
小春の膝から力が抜けた。がく、と地面にへたり込む。
読まれていたのだ。至や小春の意図を。
そうでなければ、光線より先に殺すことなど出来ないだろう。
冬真が物理攻撃で殺害したことで、至に託された睡眠魔法は、既に天界へ還ってしまった。
小春の信条の中では、冬真への唯一の対抗手段だった魔法なのに。
至の遺志そのものだったのに。
「ごめん……。ごめんなさい、至くん……っ!」
とめどなく涙を流しながら、小春は亡骸に縋る。
この状況に陥った時点で、彼の命を救うことは出来なかったかもしれない。
それでも、一瞬たりとも躊躇わなければ、魔法の方は何とか出来たかもしれない。
結果が分かりきった後で仮定の話を想定しても、それは重苦しい後悔を生むだけだった。
強い罪悪感と申し訳なさが伸し掛る。
「…………」
冬真はそんな様を眺めつつ、再び小春に蔦を差し向ける。
逃げる気力など失っている彼女を捕らえるのは容易だった。
「あ……。僕、気付いちゃった」