ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
蓮は地面を蹴った。
彼らの方へ駆け出していく。
「ちょ……っ」
瑠奈が思わず声を上げる。
アリスに掴みかかろうとしているのではないかと思った。
しかし、そうではなかった。
彼は小春に駆け寄ると、彼女を拘束している蔦をほどこうと試みる。
「大丈夫か。何があった?」
小春には彼が誰なのか分からなかった。
不意に今朝、至がしてくれた説明を思い出す。
『……それと、向井蓮くんって子が火炎の魔術師。彼は小春ちゃんのことをすごーく大事に思ってくれてるみたいだよ。たぶん会ったらすぐに分かると思う』
彼は小春本人や至自身のこと、日菜に加え、蓮たちとその協力者らの説明を一通り行ってくれていた。
小春は気が付いた。この人が蓮だ。
至の言葉通りなら、そして蓮の行動を見る限り、彼のことは信用出来るだろう。
そう思い、問いかけに答えようと口を開く。
「何も言うな。一言でも声を発したら、君のことまで殺しちゃうよ」
「……っ」
冬真がナイフの切っ先を小春に向けた。
しかし、小春の声が詰まったのは、決してそんな脅しに怯んだからではない。
それなのに、何か言おうとしても口が開閉するだけで話せなかった。
「絶対服従させられてる」
大雅が呟く。
記憶のない小春は、冬真の魔法のことも当然知らなかったのだろう。
「……くそ」
蓮は毒づき、手に炎を宿すと蔦を燃やした。
どうやら手でほどいたり切ったりすることは出来ないようだ。
そうしようとすると、まるで意思でもあって抵抗するかのように、さらに締め付けてくる。
「火炎魔法か。ということは、君が向井蓮だ」
冬真は面白がるように蓮を見やった。
それらの情報は当然アリスから仕入れている。
蓮は冬真を睨めつけ、小春を庇うようにして立った。
だが、彼は構うことなく、大雅と律に向き直る。
「二人とも、戻ってきてくれて嬉しいよ」
歓迎する、とでも言わんばかりに両手を広げた。
昨日殺そうとしていたとは思えないほど清々しい微笑みだった。
「……ふざけんな」
大雅は低い声で言を返した。律も無言で鋭く見返す。
冬真に怯んだ様子はなく、ただただ余裕の笑みを湛えていた。
「おい。小春や至に何したんだよ」
「何って、見ての通りだけど? これで睡眠魔法の脅威も消えた。魔術師を殺せない君たちに、僕をどうこうする手段はない」
そのことまで、既に冬真は知っていた。
アリスは本当に洗いざらいぶちまけたようだ。
当の本人は、得意気な冬真に同調するように笑う。
「でも、そう主張する筆頭の水無瀬が八雲を手にかけとったけどな」
一同は驚愕して小春を見やった。蓮も瞠目しつつ、窺うように振り返る。
アリスは、至を殺したのは小春だ、と言っているわけだ。
しかし到底信じられなかった。
いくら記憶をなくしているとはいえ、小春がその信念まで蔑ろにするとは思えない。その点は至の保証もあったのだから。
「小春、嘘だよな……?」
そう問われた小春は黙って俯いた。
是とも否とも示せなかったのは、冬真のせいで話せないことが理由ではない。
どんな事情があったにせよ、そうしようとしたことは事実なのだ。
彼女は黙って涙を流した。