ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「次は君たちの番だよ」

 そう言った冬真は周囲の植物を操り、全員を包囲した。

 草木がまるで化け物の手のように大きく伸びる。

「あの蔦もお前の仕業だったか」

「その人の魔法かな……? 酷いよ」

 律が言うと、瑠奈は至ではないもう一人の死体を見て眉を顰めた。

「…………」

 大雅は冬真の言っていた、傀儡魔法で殺す方法────すなわち意図的な事故の誘発を思い出した。

 その男子生徒のことは大方、高所から落下でもさせたのだろう。吐き気がする。

 蓮たちは瞬く間に分厚い蔦の壁に囲まれ逃げ場を失った。

 切り抜けるには、冬真とアリスの二人を倒し切るか、完全に撒くしかない。

 とはいえ、これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。

 至が死んでしまった以上、悔しいが“何も出来ない”という冬真の言葉は正しい。

 つまり、自ずと選択肢は後者に絞られる。

「さぁ、皆死んじゃえ」

 冬真が刃のような葉を無数に放った。

 すぐさま目の前に迫ってくる。

「……!」

 紅が指を鳴らした。────時が止まる。

 彼女は素早く銘銘に触れ、冬真とアリス以外を動けるようにした。

「うわ、危ね」

 蓮は目前に迫ってきていた葉に驚く。

 あと一秒でも遅ければ、身体中が切り裂かれていたことだろう。

「急いで逃げるぞ」

 冷静沈着な紅が急かした。

 蓮は火炎で蔦の壁の一部分を燃やすと、穴を開け逃げ道を作る。

「……っ」

 小春は思わず至に駆け寄った。縋るように蓮を見上げる。

 彼女の言わんとすることは分かったが、蓮は苦しげな表情で首を横に振った。

 連れては行けない。猶予は一分しかないのだ。

 自分たちが完全に避難するので精一杯である。動けない至を運ぶのは無理だ。

「…………」

 小春は痛ましげに再び涙をこぼす。

 どれだけ心が苦しくても、無理を通せる状況ではない。せめて、と手を合わせた。

「急げ」

 紅は淡々と催促する。

 全員が蔦の壁を脱すると、そこからはひたすら走り抜けた。

 ここが山中でよかったかもしれない。茂る木々や不安定な地形により、撒きやすく追いづらいだろう。

 しかし、忘れてはいけない。

 冬真が植物を操れるということは、そんな恩恵は半分以上無意味なものとなる。



「……っ」

 不意に紅が、ふらりとよろけた。

 頭を押さえつつ、手首にはめた腕時計を見やる。そろそろ、一分が経つ────。

 彼女が異変を来したことに気付いた小春は、光学迷彩の結界を作り出した。

 素早く顳顬に触れる。

(桐生くん。一旦、隠密してやり過ごせないかな)

 声を出せずとも、テレパシーを送ることは出来た。

 それを聞いた大雅は彼女を振り返る。

 姿が見えなかったが、落ち葉が沈み音を立てているのが見えた。

「光学迷彩で、ってことだな。最大範囲は?」

(直径三メートル)

「よし、分かった」

 大雅が足を止める。

 それを合図に小春は結界の範囲を最大まで拡大した。

「全員止まれ! ここでやり過ごす」

 紅を窺えば、その意味が分かった。

 ここで彼女の魔法の効力が切れるとまずい。まだ冬真たちから充分に距離を取れていない。

 光学迷彩を使って撒くしかない。

 全員が結界に入ると、日陰になっている部分に寄り集まった。

 その瞬間、紅は倒れ込むようにして蹲る。

 荒い呼吸を繰り返し、その場で血を吐いた。

 止まっていた時間が動き出す────。
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