ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*



「……は、あれ? あいつら、何処に消えた!? どうやって!?」

 アリスは慌てて周囲を見回した。冬真も困惑したように視線を散らす。

 突如として、彼らは忽然と姿を消した。

 大雅と律を取り逃したときと同じ状況だった。

 瞬間移動はありえない。
 で、あるならば────。

「……時間停止」

「えぇ、マジか。あの中に如月の狙いの魔術師がおったんや。十中八九、あの新顔やろな」

 他の面子の魔法は把握しているため、消去法で自ずと答えが導き出される。

 冬真は目を細め、蔦の壁を見た。

 どのくらい時間が止まっていたのかは分からないが、燃やされた痕跡のあるそこからは煙が立ったままである。

「まだ近くにいるかも」

「……それやとええけどな」

 アリスも冬真と同じことを思った。

 しかし、時間停止魔法の詳細が不明な以上、そうとも言い切れないだろう。

 例えば時間が再開したとき、停止していた分の時間はどうなるのだろう。

 時間を止めている間でも動ける人間がいるということは、そこでもまた時間が流れているということだ。

 それは現実の時間とはまったくの別物なのか、あるいは再開したときに現実の時間に加算されるのか────前者であれば、彼らがまだ近くにいるとは限らない。

 しかし、ひとまず捜してみるしかない。

 冬真とアリスは周辺を歩き回り、しばらく消えた蓮たちを捜索した。



 ────だが、既に辺りに人の気配はなかった。

 ただでさえ広大な場だ。ほとんど期待はしていなかった。

 アリスは大袈裟にため息をつく。

「これは逃げられたっぽいなー。もし反動で意図せず時間が再開してまったんやとしても、向こうには小春がおるし」

 これ以上の追跡は現実的ではない。時間の無駄だ。

 別にこの機を逸しても、彼らを追い詰めることは出来る。

 冬真もアリスもそう判断し、早々にこの場から引き揚げて行った。



*



「……行ったか?」

 誰にともなく蓮が尋ねる。

 実際には、二人はすぐそばまで迫ってきていたのだ。

「危なかったぁ。大雅くん、ナイス判断」

 あのまま走って逃げていたら危なかった。瑠奈は安堵の息をつく。

「いや、俺じゃなくて小春だ」

「そうだったの?」

 各々が小春を見やる。

 瑠奈は何か言うか迷った。出来れば過去のことを改めて謝りたかったが、彼女は覚えていない。

 瑠奈が惑っているうちに、大雅が「小春」と呼びかけた。

「俺の目、見ろ」

 言われるがまま、彼の目を見返す。

 大雅の真剣な眼差しと、小春の戸惑うような眼差しが、三秒間交わる。

「あ……」

「……解けたな」

 小春が呟くように声をこぼすと、大雅は息をついた。

 これで冬真の絶対服従は解除出来た。彼女も問題なく話せる。

「なぁ、記憶は────」

「ちょっと待て。この辺りはまだ安心出来ない。廃トンネルもアリスにバレてる以上、もう安全とは言えねぇ」

 また、至の死により瑚太郎も目覚めたはずだ。

 彼がヨル人格なら、再びトンネルに現れ、奏汰に襲いかかりかねない。

「奏汰、何ともねぇか?」

 大雅はテレパシーで呼びかける。

『うん、大丈夫。異変なしだよ』

「そっか。じゃ、場所移して合流するぞ。河川敷に来てくれ」
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