ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜



「あいつ……真性のクズだな」

 嫌悪感を顕に大雅が毒づく。

 彼は自身の顳顬に触れながら、もう一方の手で各々に触れていった。

 それぞれの脳内に、小春の記憶────至の死の真相が転送される。

「…………」

 沈痛な表情になったり、息をのんだり、憤ったり、と紅を除き様々な反応があった。彼女だけは終始無表情だ。

 アリスの、小春が至を手にかけた、という言葉を思い出した蓮は、思わず彼女に歩み寄った。

「お前は悪くねぇ。小春のせいじゃねぇよ」

 それを受け、小春は再び涙を流した。

 自責と後悔、罪悪感。

 それらの感情でがんじがらめになっていた心が救われる。
 ほどけていく。やっと、息が出来た。

「……小春」

 彼女が落ち着いたのを見計らい、大雅が呼びかける。

「今から、お前の記憶をすべて取り戻してやる」

 ややあって、小春は頷く。

 大雅は彼女と長めに目を合わせた。

 深層部分に沈んだ記憶を浮上させるのは時間がかかる。それが十七年分となれば余計に。



「……!」

 いち早くすべてを把握した大雅は瞠目した。

 しかし、あれこれと考えるより先にすることがある。
 再び顳顬に手を当て、もう一方の手で小春に触れた。

「……っ」

 小春は息をのむ。

 頭の中に走馬灯の如き映像が流れ込んでくると同時に、あらゆる認識が浸透していく。

 心臓が打つ。呼吸が震える。

 確かめるように全員を見やった。

 奏汰、大雅、瑠奈、そして蓮……。

「思い、出したか?」

 遠慮がちに彼が尋ねる。

 小春は不意に胸が詰まった。泣きそうな顔で頷く。

「……ぜんぶ、思い出した……」

 それを聞いた蓮は、深く息をついた。噛み締めるように目を閉じる。

「……よかった。本当に」

 奏汰も安堵し、瑠奈は破顔した。

 これでやっと、本当の意味での再会を果たせた。

「どうする?」

 大雅は小春に尋ねる。

「さっきみたいに俺が読み取った記憶を転送して共有することもできるけど。……お前が消えた後のこと、自分で説明するか?」

 手間を踏んでも構わない。その点は彼女の選択に委ねよう。

 少し間を空け、小春は首を縦に振る。

「何があったのか、ちゃんと私の口から皆に伝える」

 そうすることが、突然いなくなった自分をずっと案じてくれていた仲間たちへの誠意だろう。

 小春は口を開き、あの日の出来事について語り出す────。



*



 ────小銭を拾い上げ、高齢女性が去るのを見送ると、不意に背後から声を掛けられた。

「水無瀬さん」

 振り返ると、そこにいたのは雪乃だった。

「こっち、私について来てください」

 小春が何らかの反応を示す暇もなかった。

 何処か切羽詰まったような雪乃は、小春の返答を聞く前から手を引いて走り出す。
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