ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

「え……っ」

 小春は混乱したものの彼女に従った。

 振りほどけないほどではないが、雪乃の力は強く、何だかただならぬ予感を感じさせていた。

 角を曲がりながらしばらく走り続け、下道に入ると、雪乃はやっと足を止めた。

 呼吸を整えながら、小春は雪乃を窺う。

「え、と……雪乃ちゃん、だよね。急にどうしたの?」

 雪乃はスマホを取り出すと振り向いた。

 困惑する小春に、とある動画を見せる。

 踏切での一連の出来事────小春が死ぬ、という未来を。

「何、これ……!?」

 瞠目した瞳が揺れる。心臓が早鐘を打つ。

 とても理解が追いつかない。何がどうなっているのだろう。

 混乱を極める小春に、雪乃は告げる。

「あたし、時間逆行の魔術師なんです」

 驚愕した。
 まさか、彼女も魔術師だったとは。

「これは、つい二分前の出来事……。あのままあそこにいたら、水無瀬さんは殺されてた」

 小春は青ざめ、恐怖から震えた。

 すぐそこまで死の気配が迫ってきていた。いや、実際追いつかれていた。

 彼女が救ってくれたわけである。

「ありがとう……。本当にありがとう」

 小春は思わず雪乃の手を取った。ぎゅ、と掴む。

 まさしく命の恩人だった。いくら感謝しても足りない。

「い、いえ……! とんでもない!」

 雪乃は狼狽える。同じように触れてもいいものか、咄嗟に判断がつかず焦ってしまう。

 そうこうしているうちに、小春の手は離れた。

(蓮のことは瞬間移動させてた……)

 眉を寄せ、思案する。

 理由はともかく、祈祷師の狙いは自分だった可能性が高い。

 恐らく今、蓮は無事なはずだ。

 しかし────。

「蓮の近くにいたら、蓮まで危なくなるのかな」

 小春が狙われたのだとすれば、そのそばにいる者全員の安全が脅かされるような気がした。

 今は無事でも、明日は分からない。

「……あの、水無瀬さん」

 雪乃が遠慮がちに呼びかける。

「うちの学校の魔術師、知ってますか?」

 小春の抱える事情は分からないが、不躾に踏み込むことはしたくなかった。

 せめて彼女の役に立つかもしれない情報を共有しておきたい。

「今も生きてるのは……私と蓮と、C組のアリスちゃん。あとは行方不明だけど瑠奈も」

「その他にあたしを除いて二人います」

 ふと、アリスの言葉を思い出す。そういえば彼女も同じようなことを言っていた。

 小春たちと瑠奈を除き、名花高校にはあと三人の魔術師がいる、と。

 そのうちの一人が雪乃だと判明し、残る二人は────。

「朝比奈莉子と斎田雄星。あたしをいじめてる奴らです」
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