ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜

 小春は瞠目する。まさか莉子たちまで魔術師だったとは、思いもよらなかった。

「何の魔法かまでは分かりませんけど……」

 雪乃は目を伏せる。それでももしかすると、いじめの中で使っているかもしれない。

「でも、何でそんなことを?」

 小春は尋ねる。何でそんなことを、知っているのか。教えてくれるのか。

「いいんです、そんなの。あたしはただ、水無瀬さんに無事でいて欲しいだけ」

 雪乃の憂うような眼差しを正面から受け止める。

 小春は一歩踏み出し、真っ直ぐに彼女を捉えた。

「……本当に、ありがとう。雪乃ちゃんもどうか気を付けて」



*



 小春を見送った雪乃は、ぎゅう、と胸元のリボンを握り締める。

 その奥の肺が、心臓が、痛い。苦しい。

 ぜぇぜぇと息が切れる。噎せた拍子に血を吐いた。

 必死で反動による苦痛を堪えていたが、もう限界だった。彼女が帰るまで耐えられてよかった。

「くっそ……。あたしが弱くなってんのか?」

 こんな反動、とっくに慣れたはずだったのに。

 だが、構わない。

 復讐と救済────自分の目的のために能力を行使する分には、苦痛などいくらでも耐えてやる。



*



 ────彼女と別れた小春は、頭の中と感情を整理しながら歩いていた。

 いつの間にか家へ帰り着く。

 自室へ入ると、ベッドの上に腰を下ろした。ふ、と目を閉じる。

「…………」

 誰も傷つけず、誰も殺さず、仲間は勿論それ以外の魔術師たちのことを守りたい。

 敵は運営側、倒すべき相手は運営側なのだから。

 しかし、守るにしても倒すにしても、自分はあまりに無力で非力だった。

 踏切でのこともそうだ。何も出来ずに殺されていた。

 嫌でも自覚する。

(私は……)

 いつも守られてばかりいる。

 理想を掲げるだけで、何も出来ていない。

 このままではただの役立たずだ。

『考えてることがある。もう少しだけ待ってくれないかな……? 口だけでは終わらせないから』

 もともと考えていたことではあった。

 今日の出来事が、踏み切るきっかけとなった。

 覚悟を決め、決断を下す────。

(もう一度、ガチャを回す)

 そうして力を手に入れる。皆を守れるだけの。理想を叶えられるだけの。

 きっと、そのことを伝えれば、蓮に反対される。何がなんでも阻止される。

 でも、それでは駄目なのだ。何も変わらない。

 そう思い、小春はガチャを回すまで、蓮をはじめ仲間たちとは連絡を取らないことに決めた。

 また、どんな代償を払う羽目になるか分からないため、家族に迷惑をかけまいと家を出る。

 これは賭けだ。小春は恐怖心よりも強い意志を持っていた。



 あてどもなく歩きつつ、スマホを取り出す。時刻は六時半過ぎだった。

 結果次第では、もう帰れないかもしれない。

 小春はメッセージアプリを立ち上げ、母親に友人宅へ泊まりに行く旨の嘘のメッセージを送っておいた。
 それならばどうとでも融通が利く。

 蓮や仲間たちに見つからないよう、一駅向こうへ赴いた。

 ファミレスやショッピングモールで時間を潰しつつ、二十三時を回る頃、自宅や学校から近い公園へと向かった。

 ロック画面を確認する。

 蓮からのメッセージや不在着信が通知センターに溜まっていた。

【大丈夫か?】

【今どこにいる?】

 小春の身を案じる言葉の数々に、ぎゅう、と心臓を鷲掴みにされているような気になった。

 自分が今からしようとしていることは、蓮を裏切るも同然の行為だ。

 “守る”と言ってくれた彼の言葉を信じていない、と言っているに等しいかもしれない。

「ごめん、蓮……」

 強くスマホを握り締める。

(違うんだ……)

 彼のことは誰より信じている。

 いつだってそばにいてくれて、大切に思ってくれていて。

(これは、私なりのけじめなの。私も戦わなきゃいけない)

 スマホをスリープした。

 それからの約一時間は、一瞬のようにも永遠のようにも感じられた。
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